眇目の青空

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「おはよう。やあ、ありがとう! とてもいい絵が描けたよ!!」  嬉しそうに笑うストラの声に、アレッシーは慌てて飛び起きました。ぐっすり眠った後の体は、とても元気です。 「ストラ様、どうして、起こしてくださってよかったのに!」 「いいさ。君、ピクリとも動かなかったからね! それの方がとっても大事だよ」  すると、アレッシーの手を取り、ストラは描いたばかりの画布へ、彼の指をそっと触れさせました。まだ半生の、でも表面を優しく触れば少しも動かない、油絵の具の質感は、アレッシーにとって初めての経験でした。 「ここが君の顔……ここから髪だ、これが素肌、これが服の始まりで……」  ストラは1つずつ、アレッシーにすべてを教えてくれました。  その優しさが、アレッシーの生活のすべてを変えました。  後から考えれば、なんと恐ろしい選択だったことでしょう。ストラがうまいこと言いくるめて、アレッシーにひどいことをしても、誰も気が付かなかったかもしれません。 しかし、結果として、この選択は貧民街の麗しい青年に、巨万の富をもたらしました。 目の見えないアレッシーには分からなかったのですが、理想的なモデルを得たストラの絵は、強烈なインパクトを人々に与えました。  黄金の睫。褐色の肌。見たこともない布と色彩で色彩られた、まさに美青年。  そしてアレッシーの悲劇的な生い立ちは、絵にストーリーを与えました。彼の目に映るだろう暗闇の世界に、人々は思いをはせました。  また、彼を見つけ出したストラとの関係性は、人々へ希望となり、同時に欲望を満たしました。
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