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眇目の青空
鉄が叩かれ、火花を散らす音が響きます。
赤く燃える炉はまだまだ、一晩かけて火を燃やすでしょう。
「おつかれさん。アレッシー」
工場の親方が、ちょうど荷運びを終えた青年へ声をかけました。
アレッシーと呼びかけられた青年は、額の汗をぬぐいながら立ち上がります。煤に汚れ、ヤニで絡まった金の髪に、均整の取れた体躯の青年です。その目は親方の方ではなく、遠くの空を見るような向きで、顔を左右に小さく振っておりました。
「今日もありがとうな。正式に雇ってやれりゃ良いんだが……」
親方は、彼の肩をたたきます。すると青年は、今度こそ親方の方を向いて、ほほ笑みました。
「余裕がないのはどこも同じと聞いております。青薔薇戦争が終わったとはいえ、働き口があるだけましですから」
「すまない……。ほら、今日の分だ」
「ありがとうございます」
手のひらに載せられた硬貨の表面をなぞり、アレッシーはゆっくりと頭を下げました。
彼の顔は、鉄と煤にまみれてなお、美しく、気品あるものでした。
アレッシーの赤く火照った頬は、まるで薔薇そのもののように艶やかです。薄褐色の肌はひどく神秘的な輝きを放ち、まるで糖蜜のようでした。今は煤で汚れた金髪も、上等な蜜で整えてやれば、星のように燦めくでしょう。
「もったいねぇなぁ。アレッシーなら、王都でも有数の美男子だぜ」
「おうとも。ここじゃなくて、もっと良いところで働けるだろうに。紙とペンで、机に座れる仕事さ」
「あはは! そうなったら、祖母と一緒に過ごせますね。本当に、ありがとうございます」
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