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『ニカラ?……ふぅん、まぁ、いつもの珈琲のヤツか。朝香の事だもんね』
「うん、日課みたいなものだから。これは」
真澄も真澄で、私が焙煎しながら通話してる事を把握済みで「なんだただの日常か」みたいなテンションで熱い豆が散らばった事なんかスルーしてくれた。
『珈琲豆焙煎の事はおいといて、さっきの話よっ!朝香……あの勇輝ってヤツに処女卒業したってマジ??!』
「えっ……」
(しまった!真澄に勘違いさせちゃった!!)
真澄との会話の流れで「ヤリモク」「された」みたいな発言をしてしまった事になっているのに私はハッと気が付く。
「ちっ…違うよ!!処女は……まだ……大丈夫、だし」
そして無意識に、キッチンの壁に目線を向けて恥ずかしい弁明を行う。
『本当に?本当に大丈夫だったの??』
「大丈夫っ!未遂だったから。つい30分くらい前かな……。デートの帰りに勇輝くんがここまで送ってくれたんだけど、初デートなのに『部屋の中に入れて』ってめちゃくちゃしつこくって」
『マジ?』
「マジマジ!!必死にね、阻止したよそんなの……。だって初デートなんだし」
私の目線は無意識に焙烙と壁の交互に向けられ、隣人の「彼」が私の際どい話に起きやしないかと内心ヒヤヒヤしていた。
『でもさぁ、朝香はずっと彼氏欲しかったんでしょ?第一印象は雰囲気良さげなイケメンって感じだったし、今日のデートが夜になるまで無事過ごせたなら、お家の中に入れちゃっても構わないわけだよねぇ』
「そう言われちゃったら、そうなんだけど……」
真澄にはそう返事しながらも、心の奥底ではやっぱり隣人の存在を気にしてる自分がいた。
『だけど……何?』
「……」
『……』
このアパートは壁が厚めで騒音問題は滅多に起きないと知っていても、なんとなく言い辛い。
キッチンの壁に向かって喋る私の姿が、なんとなく隣人の「彼」に語りかけているような気になるから。
「あー、なんかねっ!デートの最中嫌な思いいっぱいしたのっ!」
『嫌な思いって?』
「服がダサい事を馬鹿にされたり、映画見た後に立ち寄ったカフェでブラックコーヒー飲んだら『何も入ってないコーヒーなんか飲んでつまらない』って暴言吐かれたり」
『…………』
「そこのカフェね、銘柄いっぱい揃っててコーヒーにめちゃくちゃこだわってる素敵なお店だったの!!」
『…………』
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