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「だからね、まず注文するのに手間取っちゃって。あまり飲んだ事ない銘柄も試してみたかったけど、そうしたら勇輝くんの頼んだ飲み物との価格の差が開いちゃうし」
『…………』
なんか、真澄の無言がちょっと怖い。
何故無言なのかは理解してる。私がデート中とは思えない「可愛くない女の子」だったからだ。
「一応……服装だってスカートにしてみたんだよ。デニムのロングスカートだけど。トップスだって春らしいの選んでみたつもりだし……。
一緒に食べるものや口にするものの価格差が開かないようにもしてみた……し」
こうやって無理矢理言い訳を捻じ込んでみたけど、それでも「可愛くない女の子」から抜け出せなかったのは私の責任だ。
「……ごめん、真澄」
『謝んなくていいよ。朝香だって、朝香なりに頑張ってみたんだよね?一昨日のお花見よりはマシな服装だったんだもんね?』
「うん」
『じゃあ、他にも何か嫌な事あった?ヤリモクっぽい発言が向こうから出たって事は、まだヤバい内容抱えてるんじゃない?』
真澄はやっぱり優しい。
本当はもっと私に対して叱りたい事いっぱいあるのに全部飲み込んで、私の心配だけをしてくれる。
(真澄だって相手の人から嫌な事いっぱいされて気持ちが落ち込んでる筈なのに……)
「……あのね、実は」
『うん』
私は、勇輝くんから言われて1番嫌だった内容を話す前にガスの火を止め、焙烙から焙煎豆を取り出す作業をしながらまたまた深呼吸した。
「アパートの部屋の前の廊下でね、ちょっと口論になったの。……私が勇輝くんを部屋の中に入れるの拒否ったからだと思うけど、勇輝くん逆ギレして、めちゃくちゃな言葉を私にぶつけてきて」
『具体的には?』
「『巨乳だからいいなと思って付き合ってやったのに、処女ってすげーめんどくさいんだな』って」
『は??何それ??!』
「あと、『お前みたいな田舎臭くてダサい女、痴漢だって寄ってこねぇよ』って」
『はああああ?なんなのそれ最低過ぎるじゃん!!!!』
私が最もショックを受けた暴言に対し、真澄は自分の事のように怒り狂い私に同情してくれる。
さっきまでキッチンに向かってこの告白をするのを躊躇ってしまったけど、真澄のその反応や温かな気持ちに私の心の傷やモヤモヤが癒えていき、「やっぱり話して良かった」と思った。
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