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(それにしても……。笠原くん、こうやって向かい合って近付いてみると背が高いのが際立つなぁ)
「変な質問ですけど、笠原さんって身長何㎝なんですか?」
「183だけど」
「やっぱり背が高いですね。私と30㎝差だ」
「って事は、村川さんは153㎝?」
「はい」
「そっか……確かに身長差あるなぁ」
「……はい」
満員電車の緊張が、笠原くんとのちょっとした会話でほぐれていく。
相手が片想い中で憧れの笠原くんだからっていうのもあるけど、気持ちが和んで素敵な朝を過ごせている気がして自然と笑顔が作れるようになった。
「村川さん」
「なんですか?笠原さん」
「あ……いや、なんか村川さんってかわ」
「!!!!」
笠原くんの「かわ」以降の言葉が耳に入らなくなるくらい、全身が凍てつく。
(やっぱり……!来た!!私のお尻を撫で回す、太い指の感触が……!!!!)
「っ」
怖くなって無意識に笠原くんの服をギュッと掴んでしまう。
「はぁ……はぁ……」
今日の痴漢は背が低めなのか、その人は前かがみになって私に吐息を聞かせる。
「っ!!」
私に聞かせることにさらに興奮したのか、お尻に当たっているその人の手がモゾモゾと気色悪く蠢き始めた。
(イヤッ!……嫌だ!!水曜日の早朝に必ず起こる痴態を、大好きな笠原くんにだけは知られたくないし聞かれたくないっ!!)
「っ……」
(声を押し殺して、電車を降りるまで耐えなくちゃ!)
とはいえ、私が服を掴んでしまっているものだから笠原くんにすぐ気付かれてしまった。
「おい!」
グイッ!
笠原くんは私の体を引っ張って背後に移動させてくれて
「てめぇっ!警察呼ぶぞ、この犯罪者が!!」
「ひっ……ひいいいっ!!!」
今まで聞いた事のないくらいドスのきいた声で痴漢を追い払ってしまった。
「……はぁ…はぁ……」
痴漢は人ごみを掻き分けるようにしなが私達から離れていったんだけど、私の両脚はガクガクとまだ震えてきて息も絶え絶えになる。
その後ドアが開き、私達は人の流れに合わせて駅のホームへ出た。
「村川さん、取り敢えずホームの椅子に座ろう」
笠原くんに促され、私は乗客の流れに逆らいながら椅子に座る。
(助けてもらっちゃった……)
嬉しいけど、それ以上に恥ずかしい。
全身を震わせながら私は一筋も二筋も涙を流す。
「村川さん……」
片想いの人に、一瞬とはいえ痴漢されてるのを見られてしまった。
精神的なショックが大きくて、体の震えも涙も止められない。
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