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それからりょーくんにオシャレポニーテールを作ってもらい、一緒に朝ご飯を食べた。
「やっぱり、コンビニで売ってるコーヒーじゃ味気なかったなぁ。あーちゃんやお姉さんのコーヒーの方が断然美味しかった」
玄関で靴を履く私の背後でりょーくんがポツリとそんな事を言う。
りょーくんが買ってきてくれたコーヒーは、決して美味しくないわけではなかったんだけど、確かに挽きたて淹れたての良さというものがコーヒーにはある気がする。
「あのコーヒーも美味しかったんだけどね……。じゃあ、今からの散歩でアパートに寄ったら私の焙煎豆と道具を取りに行く?」
「えっ?ここでコーヒー淹れてくれるの?あーちゃん」
りょーくんの声は驚いていたけど、口元はニヤけていて凄く嬉しそうにしている。
「今日も明日もりょーくんの20歳をお祝いする気でいるからね♪りょーくんが望むことならなんだってする気でいるよ」
「じゃあさ!じゃあさぁ!ここのキッチンで珈琲豆の焙煎やって!!」
りょーくんは靴紐を結びながら私にそんなお願いをしてきた。
「えっ!?あの真新しいキッチンを焙煎で汚しちゃうの?」
「真新しいキッチンだからこそしてほしいんだよ!俺の大好きなあーちゃんの珈琲の香りでこの空間をいっぱいにしたいから♪」
「本気で言ってるのりょーくん?!焙煎って結構煙いんだよ?」
「本気も本気だよ!だってあーちゃんの焙煎の香りは今の俺の恋の香りだから!」
「そう言われたらしないわけにはいかなくなるけど……」
「ハンディクリーナーとか重たいものは俺が持つから!だからっ!お願いっあーちゃん!!」
不思議なお願いをするりょーくんの表情は、今までに見た事ないくらい必死で
「分かったよ♪じゃあ、生豆と焙烙、網、コーヒーミルにペーパーにドリッパー、サーバー、ドリップポット……それからハンディクリーナーとウェットティッシュ。
持ち出すものがすっごくいっぱいあるから2人で手分けして持とうね!」
「うんっ!!!!」
私が了承した直後のりょーくんは少年みたいにキラキラと輝く笑顔に一瞬で変わる。
「じゃありょーくん、一緒に歩こうっか♪」
「うん♪朝だし晴れてるから気持ち良い散歩になりそう」
私達は、帰りが大荷物になる事を承知でマンションのエントランスを出て清々しい秋の空へと飛び出した。
私はこれからこのマンションでりょーくんと一緒に新しい生活を突然始める事となった。
だけど私には不安も戸惑いも一切なく、寧ろキラキラとした希望にあふれていて、目の前の彼と幸せな気持ちを持続しようという気でいるんだ。
だって私の「日常」はもう既に、彼と共にあるのだから…………。
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