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「りくと、あんたピアノ上手いねえ。」
「姉ちゃん、いつ入ってきたんだよ。ノックくらいしろよな。」
「そうは言ってもあんたピアノに夢中で私の声に気づかなかったじゃない。朝からずーっとピアノ弾いてるから差し入れに来たのよ。」
そうか。姉ちゃんの声に気づかないほど集中していたのか。
ふと我に返り、周りを見渡したら西日が窓から差し込んでいた。
姉の手には淹れたてのダージリンと美味しそうなモンブランがあった。
「このダージリン、姉ちゃんが淹れたの?
すごい香りが立って美味しそうだよ。」
「んなわけないでしょ。お母さんに決まってんでしょ。私は飲む専門なんだから。でもね、モンブランは私が買ったのよ。感謝してよね。」
あっはっはと大きな声で姉は笑っていた。
いつも明るく豪快で、そして優しい。
お殿様のようにいろんな人に慕われる姉がいて僕は本当に幸せだ。
「あ〜あ、りくともお母さんも紅茶とかピアノとか趣味があっていいなあ。あたしはこんな休日なんてスマホしてたら終わっちゃうよ。二人とも『教養人』って感じ?羨ましいなあ。」
「…姉ちゃんも昔はピアノめちゃくちゃ上手だったじゃないか。」
「もう忘れちゃったよお。」
「そういうもんかなあ。あんなに弾いてたのにねえ…。」
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