それでも見えた星

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「着いたよ」  僕がそう言うとサツキは、ありがとう、といってその場で寝転び、空を見つめる。僕もそれに倣う。  サツキと付き合い始めたころ、彼女に連れてきてもらった初めての場所。  彼女に一番初めに教えてもらった、彼女の大切な場所。  彼女の思い出の場所。  初めてここで寝そべったとき、 「私、ここから眺める星空が世界で一番好き。ここから眺める星空の絵を描いていつか大映博物館に入れるの。それが私の夢」 と満天の星のような笑顔で言っていたことを思い出す。  今日は初めてここに来たあの時と同じように、雲一つない夜空で、そして皮肉にもあの時以上絶景がそこには広がっていた。  それは月並みの言い方になるけれで、この世のものとは思えない絶景というものは、きっとこの景色のことを言うのだろうなと思わされるような、それほどの光景が広がっていった。 「どうしてだろう。何も見えていないのに、今目の前にはこの世のものとは思えないような絶景が目の前に広がっていることがわかる」 とサツキは嬉しそうに言う。 僕はそれに対して、それは良かった、とだけ返した。 「サトルくん、ごめんなさい」 と彼女は突然謝ってきた。 どうして謝ったのかを聞いてみると、 「私、あの時サトルくんに酷いことを言ったから」 と言った。あの時とは、『いつかサトル君のことも好きじゃなくなっちゃうのかな?』と言ったときのことだろう。 僕は、全然気にしてないよ、とだけ返す。 「サトルくんはどうしてここに連れてきてくれたの?」 とサツキは僕に質問してくる。  僕は、どうしてだろうな、と言って少し考えたあと、 「サツキにこの景色を嫌いになってほしかったからかな」 と冗談気に言った。  サツキは 「何それ」 と笑いながら答える。 「サトルくん、手、握ってくれる?」  僕は、うん、と答え彼女の手を握る。  サツキの体温が僕に流れてくるのを感じる。きっとサツキも同じことを思っているだろうなと思う。 「すごくいい景色。まるでこの世のものとは思えない」 と彼女は言う。僕はそれに対して、そうだね、とだけ答える。 「ベートーヴェンが何を知っていたのか少しわかった気がする」 そう言うと彼女はこう続けた。 「私、ここから眺める星空が世界で一番好き。サトルくんと眺めるこの星空世界で一番好き。ここから眺める星空の絵を描いて、いつか大映博物館に入れるの。それが私の夢」 と彼女は言う。  彼女の顔をみなくとも、きっとこの空のような顔をしているのだろうな、ということは分かった。
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