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落ちてきた声から、プレッシャーが消えてる。
「何? サイダーと、レモネード? そう言ったか?」
声色だけじゃない。俺を見おろす視線からも鋭さが消え去った。
「うん、言ったよー。正確には、お前に聞いてるんだけど。で、どっち? どっちが飲みたいん?」
「待て。お前、俺の質問をちゃんと聞いてたか?」
「へっ? う、うん。だから、俺も質問してんだけど?」
「いや、違うだろう。俺が聞いてるのは、さっきの電話の件だぞ。秋田との」
「うん。だから、俺もその件を正直に喋ってんだってば!」
「あ? お前、何を言って……」
あれ? なんか、おかしい。
『一を聞いて十を知る』をいつも体現してるって皆が認めてるほど、冷静で聡明な土岐なのに。お前が話せって言うから、俺も洗いざらい白状する気になってんのに。なんで、話が通じてない雰囲気プンプンなわけ?
「えーと……あっ! ちょい待っててっ」
そうだ。アレ、見せよう!
理由はわかんねぇけど珍しく理解が悪い恋人に早く伝わるよう、〝ある物〟を取ってくることを思いついた。
「土岐! はい、これ! これを見てくれよっ」
旅行バッグごと土岐の前に持ってきて、ででんとブツを差し出した。
「何だ、それは」
「えっ、見てわかんねぇの? 梅ジャムだよ。今夜のために秋田に教わって作ったんだー。花火を観ながらふたりで飲む、慎ちゃん特製ラブラブドリンクの材料だよーん。でもさぁ、ジャムと他の材料との配分がちょい心配になってきてさぁ。花火が始まる前に、秋田に教わろうとしてたんだっ」
よし。ここまで説明すれば、鈍感ゾーンに入っちまってる、にぶちんな土岐にもわかるだろ。
梅ジャムの入った瓶を綺麗な黒瞳の前にグイッと突き出して、「ふふんっ」と胸を張った。
「はぁぁ……」
けど、俺の予想に反して、土岐のひと言めは、大きな溜め息。
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