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 ありゃ? おかしいな。なんで、溜め息?  予想では、慎ちゃんお手製ラブラブドリンクに反応してくれるはずだったのに。思いっきり長ーく息を吐き出した後、緩く首を振った土岐はそのまま俺に背中を向けた。  えっ、どこ行くん?  ドヤ顔で突き出した梅ジャムの瓶が華麗にスルーされ、無言で歩く土岐の後ろを瓶を手にしたままトコトコとついて歩いてしまう。  あ、浴衣……。  ベッドの上に広げられたまんまの浴衣を手に取った土岐の行動で、その理由がわかった。そういえばコイツ、まだ着替え途中だったんだよな。  ——ふわっ  眼前で、縦縞の生地がひらめいた。  ピッと左右の襟先を合わせた上に手際良く帯があてがわれ、シュッシュッと小気味良い音を立てながら、身体の線に沿って土岐の手が動いていく。帯を腰に巻く動作が、とても流麗だ。  あっという間に、すらりとした浴衣姿が俺の眼前に現れた。  うへぇ、かっけー! めっちゃ、かっけーなぁ。  黒地に紺とグレーの縦縞、それに薄いピンクのラインが細くほどこされた洒落た浴衣を、さらりと着こなしちゃってさ。男の俺から見ても、すげぇカッコいいよ。溜め息もんだ。  土岐の浴衣姿なんて毎年見てんのにさ。見慣れてるはずなのにさ。なんで俺、ぽーっと見惚れちゃってんだろ。  その上、スマホの画面に指を滑らせてる仕草にまで見惚れちゃうとか、マジでおかし……。 「——あぁ、秋田か? そう、土岐だ。さっきは勝手に電話を切って悪かった。今から武田に代わる」 「へっ? それ、俺のスマホ? つか、秋田っ?」 「ほら、『慎ちゃん特製ラブラブドリンク』のレシピ、ちゃんと教わっとけ」 「ふぇっ?」  俺にスマホを渡したその手が、するりと頬を撫でてから離れていった。  うわあぁ……堪んねぇ。こんなこと、ある?  姿だけじゃなく、しなやかに動いた指の残像にすら見惚れるってこと、マジであるんだなぁ。
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