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「えーっとさ、秋田ん家に泊まったのは、先週なんだぁ。俺、どうしても、お前を喜ばせたくてさ」
「俺を?」
「うん。土岐はさ、いつも俺に色々してくれるだろ? 数学教えてくれるし、バスケの自主練も付き合ってくれるし。他にも、なんだかんだ相談に乗ってくれるし。でも、俺はなんも返せてねぇじゃん? だから、俺もお前のために何かしたくてさ」
「それで、『慎ちゃん特製ラブラブドリンク』に行き着いたのか?」
こくんっと頷くと、「ふっ」と笑った恋人がストローに口をつけた。土岐が手にしているドリンクは、梅ジャムサイダー。もちろん、作ったのは俺。
ストローが氷に当たって、シュワッとサイダーの泡が弾ける。土岐の喉がゴクンっと動いて、俺の作ったドリンクが嚥下されていく艶めかしい瞬間を、自分用の梅はちみつレモネードを片手に見守る。
見守るというより、見惚れる、だな。『艶めかしい』って表現、ばっちり合ってると思うんだぁ。土岐ってば、ただドリンクを飲んでるだけの仕草なのに、どこか色めいてんだもん。
ちょっと、ずるいっ。そんな感想とともに背もたれに身体をグイッと預け、感嘆の溜め息をつく。
「はぁ……」
背を預けてたクッションが、俺の体重でグッと大きくへこんだ。
「どうした? やっぱりビーチに行きたかったか?」
「あっ、ううん。違うよ。ここからでも眺めはすげぇいいし、大丈夫っ」
俺の溜め息の理由が、勘違いされた。隣で俺と同じようにクッションに身を預けてる土岐の気遣いの表情でそれがわかったから、慌てて笑顔を作る。
ごまかしのためじゃない、本気の笑みだ。
秋田との電話を終えた俺に、土岐はふたつの提案をしてきた。ひとつは、梅ジャムサイダーと梅はちみつレモネード。どっちも作ってほしいってこと。
もともと、土岐が梅味のものが好物だからって理由で手作りした梅ジャムだから、秋田に教わったレシピを両方とも披露できて俺には得でしかない提案。これはウハウハでオッケーだ。
ふたつめは、ビーチに出るのをやめて、このゲストルームから花火を眺めようって提案。せっかくのお手製ラブラブドリンクだから、ここでゆっくり味わいながら花火を楽しもうって言ってくれたんだ。
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