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3
頬のカーブをすうっと撫でられ、土岐と目が合った。
花火観賞のために部屋の灯りを落としてるせいか、俺を見る黒瞳はいつもよりもさらに深みを増していて、吸い込まれそう。
「綺麗だ」
「えっ?」
びっくりした。
だって、ちょうどその時、俺も土岐を綺麗だと思ってたから。うっとりしすぎて、つい口に出しちまってたのかと思った。
「ききっ、綺麗って……な、何がっ?」
けど、『綺麗』という言葉を形作ったのは、俺じゃなく土岐の唇。
「そうして空を見上げてる横顔が、綺麗だと言った」
「うえぇぇっ? ままっ、まさか、俺のこと言ってんのぉ?」
嘘だろっ? 俺だぞ?
『祥徳バスケ部のイケメンムードメーカー』って自称してるけど、それは冗談半分で。土岐や高階、常陸に比べたら、ややタレ目な俺なんか美形の括りに入れるはずもないって、自分でちゃんとわかってる。ばーっちり、お笑い枠なんだよ。
「ん? お前、自覚ないのか?」
「へっ?」
「お前は、綺麗だぞ。心根の美しさが、瞳と表情に表れている。特に、口を閉じて物静かにしている時は秀麗で色めいた印象を受けるし」
え……。
「お前に片想いしてた頃、何度、うっかり感嘆の声を漏らしそうになったか」
えええぇ、っ?
「ふらふらと近づいて、お前の顔に触れてしまったこともある。すぐに我に返って、ほっぺたを引っ張って立ち去った。覚えてるか?」
うんうん!
激しく、首を縦に振った。
めっちゃ覚えてる! 唐突にほっぺたを引っ張られて、すげぇびっくりした。そんで、『なんで?』って声を上げたら、『なんとなく』って返ってきたんだよ。好きなヤツに『なんとなく』で触ってもらえた、最高に幸せな思い出のひとつだ。
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