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「今は、それなりに周囲に気をつけてさえいれば、遠慮なく触れられる。両想いって、良いな。お前にこうして触れられることの幸せを、俺はいつも実感してる」  仄かな星明かりに照らされた()の闇に、静かに響くのは俺の好きな声。とても愛しい、甘いテノールとともに恋人の顔が近づいてくる。 「……んっ」  ふわりと軽く、唇が食まれた。  窓際に置いた小さなランタンがぽうっと照らす、バルコニーのフェンス。それをバックに、かすかに微笑んだ土岐が、二度、三度と、小鳥が啄むようなキスを仕掛けてくる。 「元気に騒いでいる時ですら、くるくると変わる表情が、とても愛らしい」  ふにふにっと、擦れ合わせるように唇を押しつけられ、甘い声がそこに乗る。 「それに、今みたいに、ランタンの灯りでもわかるほどの紅潮した頬と潤んだ瞳を見せられるのも堪らない」 「ふ、っ……ぁ」  熱い吐息が唇を割り、すぐに口腔をまさぐられた。キスが、深まる。  髪に差し込まれた指の圧。それと、どこか余裕のないキスが土岐の熱情を俺に教えてくる。 「ん、土岐ぃ……っぁ」 「今のお前、堪らなく色っぽいぞ」 「え? そんなはず、な……ぁ、んっ」  何、言ってるんだろう。土岐は。『堪らなく色っぽい』のは、お前の表情(かお)と声のほうなのに。 「まぁ、いい。自覚がないなら、それに越したことはない。お前のこの表情は、俺だけが知っていればいいからな」  俺こそが、しっとりと色めいた、甘やかなお前の表情を誰にも見せたくないって思ってるのに。 「誰も知らなくていい。いいか? 誰にも見せるなよ?」  なんでお前は、こんな俺に、こんなにも熱っぽく独占欲を見せてくるんだろう。
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