七条君の推理ゲーム

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七条君の推理ゲーム

1 「N先輩! 面白い推理ゲームを考えてきたんですよ!」  一回生の後輩、七条葵君が推理小説研究会部室に転がり込んできた。茶髪のイケメンで、今日も大学生らしい服装を着こなしている。実家が老舗の料亭でイケズな後輩だ。  そして、既にご存知の方も居るかもしれないが、俺は周りの人間から「N」とか「N先輩」と呼ばれている。いつも通り、黒のTシャツとジーパンを着崩している。勧学院大学の推理小説研究会会員の三回生だ。  推理小説研究会では現在、推理ゲームが流行っている。「ウミガメのスープ」に始まり、数十年前に流行った「東大ナ〇トレ」(言い忘れたが現在は2086年だ)、挙句の果てには「同じ推理小説を数人で同時に読み、名探偵の謎解きが始まる直前で読むのをストップし、誰が犯人を当てられるか」ゲームなんてものまで行われている。  どうやら七条君も「推理ゲーム」ブームに乗っかって、謎を作って来たのだろう。だが、彼は推理小説に関しては素人に毛が生えたようなレベルで、推理小説の読書会の時も頓珍漢な意見ばかり言う。  この前も、あの有名な江戸川乱歩の「二銭銅貨」をテーマに話し合った時、 「へぇ~、成る程。枚の銅貨があったら、ブラックジャック(靴下に石などをパンパンに詰め込み、固く絞って棒状にした物)に使えますね。それで人を殺したら、後は二千枚の銅貨で買い物をすれば凶器が消えますね。流石は江戸川乱歩先生ですね。こんなトリックを思い付くなんて」 などと発言し、八神叡瑠会長と俺を含めた、七条君以外の部員全員が椅子から転がり落ちるという出来事があった。すかさず、俺が「それは名探偵コ〇ンのネタにあっただろ! そもそも、『セン』の漢字が違うだろ!」とハリセンで七条君の頭を叩き、八神さんがその様子を見て溜息を吐く。……と、そんな出来事があったので、こんなすっとぼけた奴の作る推理ゲームなんて信用できたもんじゃない。  俺は訪問販売員が持ってきた怪しげな商品を見るような目で七条君を眺めた。その目に気付き、七条君が怒り出す! 「あ! N先輩! 今、信用できないって目で僕のことを見たでしょう! でもね、今回の僕の力作を見れば、先輩も僕の事を見直すと思いますよ。このゲームのタイトルは『あ』。そして、」  「あ」? 何だか妙な名前だ。小説のタイトルで一文字と言えば、「!(著:二宮敦人)」や「2(著:野崎まど)」が有名だ。ライトノベル界隈では昔、長文タイトルがインパクトが出やすいという理由で一気に流行ったが、逆にタイトルが一文字の場合もインパクトがある。そして、七条君の「このタイトルが既にヒントになっている」という台詞。先程までとは打って変わって、俺は彼の出題する推理ゲームに興味を覚えた。 「よし、分かった! 受けて立つぞ! 推理の悪魔の囁きが聞ける俺に解けない謎は無い!」 「あ、言いましたね! よーし、じゃあ、N先輩が解けなかったら、四条でラーメンを奢ってもらいますよ!」 「なっ、そんなの聞いてないぞ!」 「駄目ですよ。もう先輩は『受けて立つ』って言っちゃったんですからね!」 「畜生! 何て後輩だ……」  こうして推理ゲームは始まり、七条君が問題を読み上げ始めた。  
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