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美しく可愛らしい妻とは、幼馴染同士だった。
不器用ながらも想いを伝え、結婚したのが2年前。
幸せだった。
生活は決して豊かではないが、彼女さえ居てくれれば苦ではなかった。
しかしそんな彼女が、病に倒れ――半年前に死んだ。
男はずっと、彼女の死を受け入れ切れずにいた。
仕事から帰れば、家で夕飯の支度をしていて。
「おかえり、あなた」
そう微笑む彼女が、まだ居る気がしてならなかった。
しかし実際在るのは、自分だけの……空っぽの部屋だけ。
“在るもの”を容赦なく突き付けてくる現実は、次第に男の心を蝕んでいった。
食事もろくに取らず、酒に溺れ、仕事が身に入らなくなっていく日々……
友人たちの心配を手で払い除け、頬も痩せこけてきた頃。
“移動する本屋”が、やって来た。
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