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準備は出来た。
男は手順を踏み、今までより強く念じた。
「頼む……妻を、妻を生き返らせてくれッ!!」
一瞬の沈黙――しかしすぐに、異変が現れた。
集めた材料を練り込み合わせた土人形が、光る魔法陣の上でグニュグニュ ぼこぼこと音を立て始めた。
もうすぐだ……もうすぐ妻に会えるんだ……!
揺れ動く地響きさえも気にならないくらい、男は目の前の光景に恍惚と囚われていた。
形を成していく、あと少し――――
そこで蠟燭の灯りが消えた。
今時刻は真夜中。月明かりもない。
何も見えない、真っ暗闇だ。
それから間もなく、地響きがおさまった。
コレでは妻の姿どころか、何も見えないッ……!
チッと舌打ちすると、
「あな……た……」
微かだが、声が聞こえた。
まさかと思い、妻の名前を呼ぶ。
それに答えるかのようにもう一度、
「あな……た……」
間違いない。亡き妻の、声だ……!
何も見えない闇の中、手探りで妻の元へ向かう。
段々と近くなる、妻の気配。
「あな……たぁ……」
妻が、目の前にいる。
男は確信し、抱き着いた。
会いたかった――と言おうとした瞬間。
違和感に気付いた。
生臭く、泥臭く、ぬめぬめとした感触……
これは一体……何なんだ……!?
儀式は成功したハズではないのか?!
戸惑っている内にガチリと抱きしめられ、
「あ”……あぁアァぁァ……アな”、あナっ、ダぁぁぁァァァ!!」
さっきまでの鈴のような可憐な声とは真逆の、おぞましい声。
耳を塞ぎたくなるが、身動きが取れない。
一体何がどうなっているのか。
「い、い”ィ”ィ”……ただ、キマァ……ス……」
生臭い空気が、吹く。
湿った何かに頭を覆われて――――
ブチリ。ゴキュ、ゴキュ、バリ、ボリ……
その音だけが、響いていた。
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