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ほんの、一瞬だった。本当に夢なんじゃないかと思うほどに。
「じゃあまた明日ね!」
パッと、繋いでいた手を離して彼女が楽しそうに手を振りながら明かりのついた階段を下っていく。
「またね……」
僕はそれを魂が抜けたような心地で見つめていた。この幸せな気持ちを噛み締めたまま帰ろうとしたが、ふと唇のまわりの異変に気づく。
「酸っぱ」
あの女、どうやら差し入れでもらった酸イカを食べてそのまましたようだ。らしいっちゃらしいがどうにも変な気分だ。ファーストキスはレモンの味なんていうが、酸イカの味は聞いたことがない。
はぁ、と肩をすくめて帰ろうとすると視界の端の、自分の制服の右肩に細く、指の形に絵の具がついているのが見えた。
こっちのがそれっぽいなぁ……。そう思って僕はチラチラ自分の右肩を見ながら上機嫌で夜道を帰った。
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