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今までにない、大声で彼女が言う。
僕はそれに驚いて、そんなに怖かったのかなと思い少し反省して、
「冗談だよ」
と言った。
……何か、何かするなら今かもしれない。
そう思って、僕はありったけの勇気を出して左手で彼女の右の手を握った。
「……もう」
手を握り返す感触が帰ってきた。暗くてよくわからなかったけど、たぶん彼女は笑ってたと思う。そのまま僕達は長くもない廊下を時間をかけてゆっくりと歩いた。
「ねえ」
もう少しで廊下が終わる頃、彼女がふいに体を寄せて、僕の肩に手をかけた。
一瞬で心臓が高鳴り、早鐘を打ちだす。オイルが切れた機械仕掛けの人形のようにぎこちなく彼女の方を向くと唇に何かプニっとしたものが当たった。それは僕のものよりも熱くて、柔らかくて、当たるわずかな鼻息が妙にこそばゆかった。
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