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今も覚えてるいちばん古い記憶は三歳の頃なんだが、その時はもう見えてた。
何と言ったら分かりやすいか……。
闇。
黒いんじゃなくて昏い?
もわもわっとした影みたいな闇が見えるんだよ。
爪の先くらいの小さいのは、よく見たら本当にあっちこっちにある。大きいのはバスケットボールくらい。それは珍しいかな。でもわりとよく見るよ。
触ろうと思っても触れないし、小さい頃は気にも留めなかったから知らなかったんだが、小学生の頃に親に言ったら、そんなもの見えないって。何もないって言われたんだよ。
自分の見えてる世界が他人の見てる世界と違うんだって完全に理解したのは、それから何年も経ってからだった。
そういうのって、なかなか認められないもんさ。
小学生の頃なんか特に、他の奴と何でも一緒じゃなきゃ嫌だろ?
中学生のとき、ちょっと面白い女子がいたんだ。
「うっ、ボクの左目に封じられた闇がうずく」
とか言うもんだから、てっきり同じものが見える仲間がいたのかって思ったよ。
かわいい子だったし。
ああ。確かにそれが初恋かもな。
もちろん彼女の言ってることは妄想で、俺の見てる景色とは全然違った。
その闇の正体が分かったのもちょうどその頃のことだ。
飼ってたウサギが急に死んでさ。そのウサギの死体からフワフワと、闇が浮かび上がってきたんだ。野球のボールくらいだったかな。
あー、こんなふうに出来るんだなあって思ったよ。
ウサギが死んだ後にできた闇はしばらくリビングの中で漂っていたけど、いつの間にか消えてた。
数日……三日くらいはそこにあったと思う。
え?
ああ、怖くはない。
だって生まれた頃からずっと見慣れてるんだぞ。そりゃあウサギが死んだのは悲しかったけど、それだけさ。
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