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僕が何者か、って?  見ての通り僕はミミズさ。そう、さっき君が助けたのが僕だ。お礼と、少しばかり話がしたいと思ってね。    君たちの知っている通り僕達の生活の場は土の中だ。暗闇の中で生きている。僕達には目がない。耳も鼻も腕も足もない。でも体表の光センサーで明かりを感じることができるから特別困ることはない。口の周りや体で周りの様子を感じることができるし移動だって自慢の剛毛で自由自在だ。僕達の体は永い時を掛けて地中での環境に順応した。  それ故にどうにもしがたい弱点がある。それは皮膚の弱さだ。僕達は太陽の光を浴びれない。真昼の太陽は僕達の皮膚を焼き焦がす。五分も浴びればほば水でできている僕達の体は干しあがってしまう。  土竜に追いかけられたり、地中が水浸しになって呼吸出来なくなって地上に緊急避難することはあるけれど自ら陽の光にあたりに行くことはほぼない。  まだ時間は大丈夫かい?  まあこんな風に人間は僕達のことを知り尽くしたつもりでいる。  だけどね。  僕達には人間の知らない能力がある。  知っての通り僕達は喋れない。僕達は鳴かない。声帯というものが存在しないから音が出ない。羽も足もないから、こすり合わせて音を出すこともできない。  その代わり。 僕達ミミズはテレパシーが使える。海を越えるほどの力はないけれどね。 一匹が伝えたいことを近くの仲間に伝え、伝えられた仲間が移動した先で次の仲間達に伝える。そうやって情報をやり取りして危険を回避したりもっと住み心地の場所に移動したりしてるんだ。 それだけじゃない。僕達は映像をも共有している。ふふ、随分驚いてるね。目がないのにどうして、と思うよね。僕達の体は環境に順応したと言ったね。そう。元々は目があったんだよ僕達にも。 どんな映像か気になるかい? それは太古の記憶、まだ恐竜が地上を我が物顔に歩いていた時代のものだ。君たち人間の誰もが目にした事の無い美しい世界だよ。真っ暗な地中で生活する長い時を経て僕達の目は退化した。 だけど僕達の祖先はその素晴らしい映像を忘れないように親から子、仲間から仲間へと受け継ぎ受け継がせる。      
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