23人が本棚に入れています
本棚に追加
子ども達が夏休みになってすぐのことだった。
夜9時頃、大輝が帰ってきた。赤らんだ恐い顔をしていた。
「書け!」と言ってリビングのテーブルに書類をバンとたたきつけた。
離婚届だった。
「そんな……」突然のことに祥子は絶句するばかりだった。
「書け!」テーブルにあった花瓶が跳んできた。
「だって……私そんなこと……」
「俺はもうお前と暮らすつもりはないんだ。わかってるだろう!」飾り棚にあった写真立てやオルゴールが次々と跳んできた。
「ちょっと……落ち着いて……」
「俺は落ち着いてる!書けと言ってるんだ!」
殴りかかってきた。
幸い子ども達は2階で寝ていた。
子ども達が目を覚ましませんように。気がつきませんように。
祥子はそんなことばかり考えていた。
置き時計が頭に当たって、少しの間気を失っていたらしい。
頭に水をかけられて気がついた。
「明日とりにくるからな!書いておけよ!」そう言い置いて大輝は家を出て行った。
目がギラギラしていた。異様な形相だった。
『大輝、正気じゃない』ボンヤリした頭で祥子はそう思った。
とにかくしばらくこの家を離れよう。
正気に戻るのを待たなくてはまともな話しができない。
最初のコメントを投稿しよう!