「日夜歩」

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 「昔は島の風習、俺達の頃には子供達の度胸試しになってたな…」 彼の地元では日夜歩(ひゃほ)が流行っていた… 都内で暮らす“Y”は離島出身…彼の故郷は本土から離れ、島に行くにも、 ヘリと船を使う必要があった。 島の過疎化は目に見えて進み、住民の高齢化、子供達の数も僅かだった。 「とにかく、何もないんだよ。テレビはあったけどね。ゲームとかも全然ない。だから、遊ぶ時は自然と外…それでも、ネタは尽きる…」 暇を持て余していた頃、友人の一人がある提案をした。 「島の網本の息子でさ。昔の話とか、風習を知ってて、その中で、さっき言った“ひゃほ”が出てきた。ヒャホ、ヒャホー、皆好きに呼んでたよ。やり方も簡単だったし…」 島の海岸にある洞窟群…その中の一つを、明かり無しで歩く。 洞窟の中は大人2人が並んで入れるくらいのスペースがあり、20分も歩けば、 入口数メートル横の穴、出口に出る。必ず日中にやる事が決まりの度胸試し…昔は島の若者の成人の儀として行われていたモノだった。 「実際は結構危ない。中は真っ暗に加え、洞窟の構造なのか? 入ると、外の音が聞こえない無音状態… これがかなり怖いし、スリルもある。手探りで進もうにも、岩とかで手切るから、皆、足で前を確かめながら、進んだ。ダチの中には、転んで体切る奴もいた。 日中にやる理由もわかる。だけど、誰も助けない。自分で出てくるのが決まり… 穴に入るのは1人だけ…2人以上は入っちゃいけない。絶対にだ」 ある時、それを破る日が来た。 「ダチの弟がやりたいって言ってさ。それが、中に入って、しばらくしたら 叫び出した。 “助けて、にーちゃん!” ってな。皆、予想はしてたよ。生意気ざかりだったし、次の刺激を求めてた」 その場にいたYを含めて、4人で穴に入った。 「俺とダチが先頭で入った。懐中電灯を持っていた。 普段、見えない中を照らすためにな。そしたら…」 ライトの光は、入口近くで蹲る弟の姿を映していた。問題は、その周辺… 「もの凄い数の蛭が蠢いてた。洞窟の中全体、俺達の周りも、尖った岩で 手切った訳じゃない。あれは奴等が指先で突ついた傷だ。 弟を連れて、皆で逃げた。 外に出たら、安全だった。光に反応する。強すぎる明かり… 日の光は強すぎるらしい。全く、とんでもない風習を考えてくれたよ。俺達のご先祖は…」 今でも、洞窟で蠢く蛭の群れが目に浮かぶとYは言う。その日を最後に、彼等の度胸試しは幕を閉じた…(終)
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