おうち陣取り合戦

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 三年前、地方の農村に移住した友人がいる。  現在農村に住んでいるといっても、その友人は農業従事者ではない。漫画家を生業としている女性で、「一日中家に閉じこもって作業しているなら、高い家賃を払って都会の狭い部屋を借りるより、田舎で広い家に暮らした方がまし」という理屈で、自然豊かな土地へと引っ越して行ってしまった。  郊外のアパートに住んで毎日都心に通勤している身からすれば、クリエイターに必要だろう文化的刺激が足りないのでは?と思わないでもないが、彼女曰く、「都会に住んでいてもろくに外出しなかったし、ネット環境と宅配サービスが整っていれば、問題なし」とのことだった。  とあるゴールデンウィークの、連休三日目のことだ。  私は、普段家にいる時には疲れ切っていて気付かなかったあることに、充分に体力を取り戻し暇を持て余した状態になってはじめて、気が付いた。  アパートの上の階の住人の足音、五月蠅すぎないか?  ……気にし過ぎだろう。そう思って、ソファに寝ころびスマートフォンを弄っていたが、しかし、気になる。いかんとも、気になる。  私は、イヤフォンを耳に着け音楽を流した。そうまですると、足音は気にならなくなった。しかし、これから休みの数日間、私は日中、ずっとイヤフォンを付けて過ごすことになるのだろうか。自分の住む家だというのに?  急に、都会の窮屈さ、息苦しさを感じた。では、どこかに脱出しようかと考えたが、一般的な勤め人である自分が休んでいる今の時期、当然、この世の勤め人のほぼほぼにとっても休日であり、となると、ホテルや旅館はそうは空いていないだろう。もし空いていたとしても、薄給の身には厳しい繁忙期特別料金だ。  いよいよ都会人として追い込まれた気分になった時、ふと思い出したのは、締め切り間際以外はのほほん顔の、今は田舎暮らしの友人の顔だった。  夕方、無人駅の改札を出ると、駅と駐車場とを挟んで横たわる道路に、少々時代遅れの型の黒い軽自動車が一台、停まっていた。運転席が無人なその車の後方に回ると、友人はすでにトランクを開け、私の荷物を載せる準備をしてくれていた。 「遠いところまで、いらっしゃい」  都会に住んでいた頃には病的に青褪めていた彼女だったが、久し振りに会った顔はいくらか日に焼けているのか、以前より健康的に見えた。  友人には前々から、「一度おいでよ」とは言われてはいた。しかし、連休に入った後で突然来訪したいなどと、流石に図々しいかと我ながらおもわないでもなかった。しかし彼女は、作業もあるしあまりかまえないが、それでもいいなら明日からでもと、返事をくれた。一晩明け、数日宿泊する分の荷物と駅ビルで買った生菓子を持った私は、普段より混雑した下りの電車を五本乗り継ぎ、半日がかりで彼女の住む村に着いたのであった。  砂利道に揺れる助手席に座り、車の窓から種類も量も多い緑色を眺めて二十分、雑木林の手前に建っている、友人の二階建ての一軒家に辿り付いた。まだ明るい時間だというのに、カーテンが全開の部屋の中には煌々とシーリングライトが灯っていた。 「電気点いてるけど、誰か家にいるの?」 「どうぞ、上がって」  聞こえていなかったのか、友人は私の質問には答えずに自宅玄関の引き戸を開けた。既に明るくされていた門燈を横目に私が玄関をくぐると、正面には白々とやけに明るく人工的に照らし出された廊下と階段とが続いていた。  私が靴を脱ごうと玄関の三和土を見下ろすと、そこには、友人のものだろうスニーカーとサンダルが、一足ずつあった。しかし、彼女の趣味とは思えないヒールの高いパンプスと、男物と思われるウィングチップの茶色い革靴、チープなカラーリングの土で汚れた子供サイズのスニーカーも、ひっそりと壁沿いに並んでいた。 「私の他にも、お客さん?」  私が聞くと、友人は引き攣らせ気味に片方の口端を上げ、階段の先の方をちらりと見た。 「んー…なんとも…」  彼女はそれ以上、言葉を続けなかった。もしかして、取り込んだ迷惑なタイミングで訪れてしまったのだろうか。私は少し不安になったが、そうだとしても、今からまた半日かけて家に帰るのは厄介だ。いずれにしても、今日一晩は泊まらせてもらうことになるだろう。  内心で開き直った私が手を洗いたいと言うと、友人は「そこ、洗面所」と、玄関横のスペースを指差した。私は洗面台の前に立つと、ポンプ式の石鹸で手を洗い、そうしてから自分の顔を鏡で見た。その時、視界のコップに立てられた歯ブラシが目に入った。  一、二、三、四本。そのうちの一本は、アニメキャラが印刷された子供用だった。 「タオル、グレーの方使って」  友人に言われて、洗面台の壁に取り付けられたタオル掛けを見ると、 二枚掛かったうちの一枚はグレーのガーゼ生地、もう一枚はピンクのワッフル生地のタオルだった。  洗面所から顔を出した私は、再度、友人に聞かずにはいられなかった。 「同居してるの?どっかの一家と?」  廊下で私の荷物を移動させていた友人は、この家に着いてから後でようやく私を正面から見た。そうして、眉尻を下げ苦笑いをすると、「玄関先じゃなんだから」と言って、私を手招きした。  友人が私を案内し座らせた場所は、眩しすぎるくらいに西日が当たる縁側だった。目の前に広がる、何が栽培されているのか見当もつかない畑を見ながら、私は改めて、騒がしい街から長い距離を移動して来たのだと実感した。  日々のストレスからようやく解き放たれたような気分になって、ぼうっとしていると、友人が冷茶の入ったグラスを両手に持って、私のすぐ横に腰を下した。 「どうぞ」  手渡されたグラスを傾けた私は、農村の景色と緑茶の味との親和性に、一旦、この家に来てからの疑問を忘れた。 「この家に、私の他に誰かいるのかってことだけど」  友人のこの一言で、思い出した。 「いるっていえば、いる」  私はさっきまでの、田舎の趣を楽しむ気分から一転、下世話な好奇心丸出しで友人に尋ねた。 「それって、もしかして、子持ちの人とかと同居してんの?まさかもう、籍入れてるとか?」 「まっさかっ!まさかでしょっ!!」  友人は、こっちがちょっと怯んでしまうくらいの、思い切り不快の表情だった。 「……じゃあ、どっかよその一家とでも同居してるの?」 「こっちは、そんなつもりじゃないんだけどね」  私のさっぱり理解出来ないという表情を見た友人は、いよいよ端的に言った。 「いるんだ、ここ」 「幽霊?!」私は行った後、自分の口を塞いだ。本人(?)に聞かれでもしたら、憑りつかれそうな気がしたのだ。 「幽霊、なのかな?一般的に聞く幽霊とは、微妙に違うような気もするけど。あ、ちょっと来てくれる?泊まってもらう前に、この家の注意事項」  友人は立ち上がると、私を連れて二階に上がり、北側に向いたドアの前まで案内した。 「この部屋。この部屋にだけは、入らないでね」 「まさか、ここ、……事故現場、とか?」 「この部屋、というか、この家全体、そういうんじゃないみたい。私も、家主とか近所の人とか役場とかにしつこく聞いたり、ネットで調べてみたりしたけど、ここ、不幸な事件事故とは関わりはないみたい。ただ、」 「ただ?」 「この部屋、私が陣取り合戦で完敗を喫した場所なんだわ」  友人が引っ越した一軒家は、一階だけで2LDK、二階には三つの和室を有する、一人暮らしには広過ぎる家だった。この家に越してきて、ひと晩め。彼女は早々に、新しい住まいが尋常ならざる住居であることを知った。  その夜、友人は、さて終日の引っ越し作業に疲れ切った体を休ませてやろうかと、寝室と決めた部屋の照明を消し、布団にその身を横たえた。  疲労し過ぎていたのか、馴れない環境のせいか、なかなか深く寝付けずにうつらうつらしていると、なにやら、どこかの部屋で人の気配がする。いや、気配どころではない。足音や、物を動かす音、しまいには人間が咳込む音まではっきりと聞こえた。  ごく現実的な恐怖を感じた友人は、第一に自分の身の安全を考えた。そうして、できるだけオヤジ臭い豪快なくしゃみを一発かますと、立てられるだけの最大限の物音を立てながら、布団から起き上がった。  友人は和天井からぶら下がったペンダントライトを点け、部屋の隅に立てかけていた箒を手に取ると、襖を開け廊下に出て、それからは、近くの部屋から順に戸を開け、家中の照明を点けて回った。その際、鉢合わせを避けるため、侵入者の退路を塞がぬよう慎重に巡回ルートを選択した。  友人は、住居の部屋とその押し入れ、廊下、そして物置、すべての戸を開け確認した。しかし、しっかりと施錠されていた屋内で、ゴキブリ二匹とムカデ一匹以外の動物を発見することはなく、彼女は物音の真相を掴めぬまま深夜の新居探検ツアーから寝室へと帰還した。それからは一睡もせず、その部屋で夜を明かし、朝が来るのを待った。  その後の三日間、彼女は家中の照明を昼夜問わずに点けっぱなしにして過ごした。その間、家の中で人々に忌み嫌われる害虫等には遭遇しても、ネズミ以上の大きさの哺乳類を見かけることは無く、それらの物音や気配も皆無だった。  となると、気になってくるのは寧ろ経済的打撃、電気代だ。引っ越し五日目の夜、友人はようやく家中の電気を消灯し、床に就いた。途端、ドタドタという足音、ゴトゴトいう物音が自分以外誰もいない筈の屋根の下に鳴り始めた。友人は起き上がり、引っ越し初夜に起こした行動を繰り返す羽目になった。 「で、やっぱり誰もいなかった。そんな夜が、その後も続いて」 「よく出ていこうと思わなかったね。この家から」  コーヒーを淹れる友人の横で、私が持参したシュークリームを載せるための皿を食器棚から出そうとしたところ、友人が「そっちの棚のはうちのじゃないから、むこうの棚にあるの使って」と、止めてきた。 「……慣れだな、慣れ。でも、物音だけで実害がないなら、べつに同居しててもいいかって電気代ケチって、自分がいる場所以外の照明消すようにしちゃったのは、間違えだったわ」  友人がそれに気が付いたのは、引っ越して十日目の、朝だった。  起床した彼女が、寝起きの水を飲みに台所に行くと、シンク横に設置した水切りカゴの中に、マグカップが置いてあった。友人は、そのマグカップに見覚えがあった。  引っ越してから、まだ二、三日の頃。友人は前の住人が残していった食器棚の扉を開け、中を確認した。がらんどうの空間の中、たった一つポツンと鎮座していたのが、そのマグカップだった。表面にファンシーな色鉛筆調のクマがプリントされたそれは、友人の好みでは全くなかった。友人は即座にそのマグカップを、他の不用品を入れていたゴミ袋に突っ込んだ。  そうした筈の物が、何故か、ついさっき洗われたらしく水滴を表面光らせ、洗いかごの中で逆さになっていた。友人はそのマグカップをしばし見つめ、不可思議な現象について考え込んだ。だが、彼女にも生活があった。数分後には、再びゴミ袋の中にそれを収め、その日はそれ以降そのことを忘れた。  しかし翌朝、彼女は前の日の朝と同様に、クマのマグカップを洗いかごの中に発見してしまったのだった。友人はその後の数日間、マグカップをゴミ袋に入れ続けたが、その度、そのマグカップは夜が明けると、洗いかごの中で朝日に輝いた。  だが、運命の時はやって来た。ごみ収集日だ。玄関先から遠く走り去ってゆくごみ収集車を見て、友人は胸の内でひとり、高らかにかちどきを上げた。  その次の日の朝、何事もなかったように、ファンシーなマグカップは洗いかごの中に出現した。しかも今度は他に二つ、合計三つの似たようなテイストのマグカップが仲良く並んでいた。それを見た友人は、朝から憔悴状態に陥った。それでも気丈に日常を取り戻そうと、彼女は顔を洗いに洗面所に向かった。  そして、彼女は鏡の手前に見てしまった。彼女のものではない、メラミン製のコップに三本刺さった歯ブラシを。 「どうやら、暗い場所に現れるらしい。日当たりがよかったり、長時間電気点けてたりする部屋には出てこないっぽいんだけどね。さっきの北の部屋、あんまり居心地良くなくて私は殆ど出入りしてなかったんだけど、ある日ドア開けたら、憶えの無い箪笥とドレッサーが置いてあって。あ、もうここ、関係者以外立ち入り禁止の部屋だわって、諦めた」 「……」  手土産のシュークリームはしっかりと卵の風味がして、なかなか良い買い物をしたと思わせてくれる品だった。そして、友人が淹れてくれたコーヒーもコクがあり、且つ雑味が少なく、やはり水が違うのだろうと感心させられる一杯だった。そんな風に味覚を心地よく刺激されながらも、友人から聞いた体験談は、なかなかどうしたって現実味が薄い。  私には、彼女の話が信じられなかった。私も友人の話に登場したものを、目にはした。洗面台の歯ブラシだ。それに、話には出てこなかったが関係するものであろう、玄関の靴三足も見た。しかし、それが友人自身が置いたものではないという証拠は無かった。  友人は、人を怖がらせて喜ぶ性質ではない。だとしたら、彼女自身が本気で自分の他に誰かが家に住んでいると思い込み、彼女自身の手で架空の同居人たちの形跡を作り出しているということだろうか。  私は気のおけぬ友人らしいくつろいだ笑顔の仮面をか被りながら、実のところ、彼女がかなり怖くなってきていた。だが、もろもろの事情を聞いてしまった宵の口、この田舎の一軒家を出て、五本の電車を乗り継いでj都会の我が家に帰るには、少々遅過ぎる時間になってしまっていた。  友人との長い晩酌付きの夕飯を終えた私は、これから深夜まで原稿作業に追われるという友人より先に寝かせてもらうことにした。  借りた風呂で洗った髪を借りたドライヤーで乾かした後、私は既に作業中だった友人に声をかけ、彼女の寝室のベッドの横に布団を敷いてもらった。 「悪いんだけど、天井の電気は消しても、ここの電気だけは点けといて」  友人は「おやすみ」の前にそう言って、床置きのスタンドライトを指差した。間接照明目的のそれが発する光は淡くまろやかではあったが、しかし、普段は豆球も点けずに寝る派の私だ。こう明るくては眠れない。そう思ったのだが、日中の長距離移動でかなり疲労していたのだろう、あっけなく眠りの世界へと導かれた。  だが数時間後、物音が私の眠りを妨げた。  最初は、遠くでばたりと扉が閉じられる音。それから、ギシギシという床を踏む足音。ジャーッという水音の後、また、床が軋む音。その足音は徐々に段々、大きくなっていった。  誰かが、この部屋に近付いている。私の頭は布団を被った中で、完全に覚醒した。そうして、恐る恐る、両目を掛け布団から覗かせた。  薄暗い中でも、襖がグラリと僅かに揺れたのが分かった。その襖がカタリと敷居をすべり、廊下からの逆光に照らし出されて見えたのは黒い、人影。 「わ―っっ!!!」 「うわっ!何っ?びっくりしたぁ」  いつも矢鱈と落ち着いた態度の友人がこんなにも驚いている顔を見るのは、いつ振りだったか。 「こっちが、びっくりしたよっ!」 「はいはい、起こしちゃってごめんね」  友人は私を跨ぎ自分のベッドに上がると、かったるそうに掛け布団の下に潜り込んだ。 「今、何時?」 「二時半くらい」  それきり、友人は黙った。完全に即寝する体勢だ。 「目ぇ、覚めちゃったんだけど」 「そう?でも、早く寝入った方が良いよ。じゃないと…」  バタバタ…。 「ほら。これから朝まで、こんな感じだから」  ゴトゴト。  ジャージャー。  ガチャガチャ。  それらは、怪異と表現するには余りにも生活臭の濃い騒音だった。私は自分の驚愕する気持ちを共有してもらおうと友人を見たが、壁の方を向き私には背を向けた彼女の肩は、既に寝息と同じリズムを刻んでいた。  私は結局、一夜明けた次の日には彼女の家を後にした。昼間に安普請のアパートで上階の住人の出す騒音に悩まされることか、夜間に実体の無い何者かの生活音を聞かされることか、どちらがより許容できそうかを考え、やはり、私は家に帰ることを選択した。  昼下がりの時間、まだ半分眠りこけている寝不足の頭で友人お手製の地場野菜使用のオイル系パスタを完食すると、私はろくに広げてもいなかった荷物をまとめた。  軽自動車のトランクにスーツケースを入れてもらい、助手席に乗り込んだ時、拙いピアノの音で弾く単調な練習曲を聞いた。近所に他の家は無い。無人の筈の友人の家から聞こえているに決まっていた。 「最近あんな感じで、昼間でも元気なんだよね。あのピアノも、いつの間にか二階に持ち込まれちゃってた」  運転席に座る友人はそう言って車を発進させてからは、駅までの車中で同居人たちの話を一切しなかった。代わりに、私と共通の友人たちの近況やら、彼女らとの思い出話ばかりをした。だから、私はすっかり油断していた。  駅前の道路に車を止め、友人が私にスーツケースを手渡した。その時に、彼女は唐突に私に聞いた。 「私が同居人のこと話した時、私がおかしくなったんだと思ったでしょ?」  友人の体験談を不審に思ったその時より、夜中に彼女が寝室の襖を開けた時より、その後に暗闇に人の気配を聞いた時より、なにより、この時、私は肝を冷やした。  私はろくに返事をせず、ただ笑って誤魔化した。そうやって誤魔化せなければ、大学生の頃から十年も付き合いは続いていない。  その、三か月後の話だ。  友人は結局、田舎の家を出て、地方都市の郊外に居を移した。友人が例の一軒家から離れる決心をしたのは、彼女の寝室の押し入れに大量の紙おむつを発見してしまったからだという。 「四人家族になっちゃたんだよ。四人家族に単身者が勝てる筈なくない?しかも、あの家で一から…ゼロから?育つ子が生まれちゃったんだよ」  私としては、三人家族も四人家族も同じではないかと思えたが、友人としては、同居人家族の発展の勢いに、変化の少ない自らの生活が圧倒されてしまったらしかった。珍しく長々と愚痴をこぼす友人を、私はゲーム片手間の電話で慰めた。 「ところで、タオルいる?」  出し抜けに、友人が尋ねてきた。 「タオル?なんで?」 「引っ越しの段ボールに、熨斗付きのタオルが入ってたの。私を追い出したお詫びだか、勝利宣言なんだかはわかんないけど。なんか使うの悔しくって。使ってくれる?ちゃんとしたメーカー品だよ。そっち、送ろうか?」  付き合いの長い私には、わかった。これは、友人なりの復讐だ。意外と執念深い傾向がある彼女は、私が三ヶ月前に彼女の正気を疑ったことを、まだ根に持っているらしかった。そこまで感じ取った私だったが、彼女の申し出は勿論、丁重に断った。
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