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病室の扉は音もなく、静かに閉じられてしまった。白塗りの扉はやけの重々しく見え、どのような策を用いても開かないような気がしてしまう。
「逆濃姫……いや結婚はしていないか」
「え?」
「何でもない。さ、早く行こう」
「……どこへですか?」
「この前の海」
淀沼は廊下を進む外御原を速足で追う。彼の目はまだ光の揺らめきを失ってはいなかった。
「穂多瑠さんに聞き込みに行くんですか」
「戸川さんと結託しているのであれば、彼女も口を開くとは考えにくいでしょ」
「ではどうして?」
「今度は周辺の人に戸川さんの写真を見せて回る。居住地域、仕事の種類、その他何でも。わかったことから徹底的に彼の素性を洗い出す。間違いなら間違いで、それでいい」
本部はすでに戸川の送検を進める予定である。外御原がしようとすることを、本部は了承しないだろう。これは彼自身の身勝手に他ならない。ただ、そこに譲れない一つの何かがあるのだろう。
淀沼の脳裏に、いくつもの戸川の表情が駆け巡る。外御原と淀沼の想像を真実だと証明することは、人生を捨てて身代わりとなった戸川の覚悟を踏みにじるということに他ならない。事件の裏を暴いて満足するのは外御原と淀沼だけ……いや、淀沼にも迷いはあるのだ。
「私たちは正しいことをしているんですよね?」
「……どうだろうね。僕たちと戸川さんの正しいことは違うことなのかもしれない。だけど、刑事である僕たちの仕事は、事件の真実を求めることだと思う」
外御原は振り返る。消毒液の臭いが鼻を突いた。
「君は、どう思う?」
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