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母の遺骨を納骨し終え、2DKのアパート帰った時、ようやく自分が本当にたったひとりになってしまったと実感した。
頼るものがなくなったという心許なさ。
感情が乾いてカサカサになった気がした。
手を伸ばしても、誰も握り返してくれない。
自分から放たれた糸が、どこにもつながっていない。
そんなイメージが浮かび、それが現実だと気づき、「ああ」と思わず呻いた。
こういうのも、絶望と言うのだろうか、と頭の奥で思った。
糸は暗闇に吸い込まれ、先が失われている。
伸ばした腕の先は、暗闇にまとわりつかれ、消えている。
暗闇の中にいると、目を閉じていても開けていても同じなんじゃないか。
天涯孤独という暗闇が、周囲を取り巻き、伸し掛かる。
この先、どうやって生きていけるのだろうか。
誰かと、つながることができるのだろうか。
幸福を手にできるのだろうか。
茂には、目の前の暗闇が、山の中の暗闇なのか、天涯孤独という暗闇なのか、どちらかなのか、どちらもなのか、わからなくなっていた。
歩いているのに、自分の意識がどこにあるのかさえ、あいまいになっていた。
ただ、衝動に任せ、感覚に任せ、歩いていく。
(こっちだ)
なぜだろう。
手を伸ばした先に、暖かいものがある気がする。優しい温もりが、ある気がするのだ。
気が付けば、けもの道のようなところを歩いていた。
歩きながら手を伸ばしていた。
この先に、ある。
暗闇の中の、その先に、ぽうっと柔らかな光を感じる。
茂は歩いた。
ひたすら歩いた。
2時間以上、険しい山中を歩いていた。
夜明けがくる。
暗闇が明ける。
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