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ガサ、と腰高まである草を分け、茂は躍り出た。山の中から抜け出したのだ。
「・・・あ」
暗い中にずっといた目には、いきなり世界が真っ白になったように見えた。
ただその中に、ひと際、白く浮かび上がるシルエットがある。
そのシルエットに向かって、茂は手を伸ばした。
この手を、取って。
世界につなげてくれ。
茂は自分が疲れ果てていることに、ようやく気付いた。山の中を一晩歩き回ったせいだけではない。天涯孤独になってから4年、ひとりで生きていくことに、疲れ始めていたのだ。
(辿り着いた。もう、いいよな)
手を伸ばしながらも、そんな諦めのような境地が浮かんできた。
まぶたが落ちてくるのを、止めようとは思わなかった。
自分が、倒れたことがわかった。
(疲れた・・・)
目を閉じて再び暗闇の中に落ちようとした、その時。
「ダメよ」
鋭く、けれど労わるような声がして、同時に、伸ばした手を握り返す温かな手を感じた。
茂は重い目をうっすらと開けた。
自分の手より一回り小さい手。細い指を目一杯広げ、自分の手を包むように握り返しているのが見えた。
「しっかりして。助けを呼んでくるからね」
心地よい声だった。
茂は小さく頷いた。
少しだけほほ笑んでいた。
誰かとつながったという安心感。
か細い手だったけれど、とても温かかった。とても頼れる温もりだった。
暗闇の中で感じた柔らかな光は、”彼女”だったのだ。
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