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「ねぇ、僕のこと覚えてる?」
この辺りでは一番大きなホテルで開催された嶺和学園高校の第56期同窓会。
10年ぶりに会う人が、多いせいかあちこちで「久しぶり」の声が交わされている。
私はいきなり声を掛けられて、ドキリとしつつ振り返った。
「えっ、えーと。」
「佐藤だよ。忘れちゃった?」
「あ、さ、佐藤くん。お久しぶりです。」
とりあえず覚えてはいないが、返事を返す。
「あー。その感じだと忘れていたでしょ。」
「ごめんなさい。私と高校の時、それほど親しくなかったよね?」
「あははは。やっぱり?でもこれを機会に仲良くしてよ。えーっと…」
「鈴木です。鈴木亜美。」
「亜美ちゃんね。美味しそうなものがいっぱいあるから、食べながら話そう。」
「はい。」
話に夢中な人が多いせいか、美味しそうな料理はかなり残っている。
佐藤くんという話相手が出来たおかげで、会場の隅に置かれた椅子に座って食べていてもおかしくないから、料理をたくさん食べることが出来た。
そろそろお開きとなるタイミングで立ち上がった。
「亜美ちゃん?」
「ちょっとお手洗いに。」
「亜美ちゃんはクラスの二次会行くの?」
「どうしようかな。」
佐藤くんの顔を見たり、視線を外したりして迷っている事をアピールしてみる。
「もうちょっと話したいな。」
「先にお手洗いに行ってくるから。」
席を立つと会場の横にあるレストルームを素通りして、一階のフロントと反対側のトイレで、パーティ用のワンピースからカットソーとスキニーパンツに着替えて外に出た。
「ごめんね。知らない佐藤くん。」
私は聞こえないだろうけど、佐藤くんに謝った。
私が佐藤くんを知っているはずないんだ。
だって私は嶺和学園高校の第56期卒業生じゃないんだもの。
パーティに潜り込んで、ステキな高校時代を送った気分になりたかっただけ。
「さて、帰るか。」
夢の時間は楽しかったけど、覚めるとちょっぴり虚しかった。
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