妖怪を飼う

5/14
前へ
/14ページ
次へ
 お母さんは猫が何者なのか直ぐに分かっていた。霊媒師だから当然だ。百恵は狐につままれたようだ。仔猫をキャリーバッグから出してしげしげと眺めた。どう見ても変わらない。  お母さんは和室に行って妖怪除けのお札を持って来た。木に赤と白の紙が巻かれていて金色の紐がついたもの。仔猫は逆毛を立てた。 「出て行きなさい。この家に妖怪は住ませません。商売が出来ないじゃない」 「まあ、まあ、いいじゃない。お母さん。一日くらい置いてあげようよ。悪霊じゃないんだから。それに夕方に追い出したら可哀そうだよ」 「まったく、どうせ拾ってくるなら本物の猫にしてよ」 「私はお母さんみたいに霊能力があるわけじゃないもの」 「じゃあ、夏休みを利用して修行に行ったら?お母さんもついていくからおばあちゃんの家に行きましょう」  おばあちゃんの家は神社だ。ここから離れた田舎、秩父にある。おばあちゃんには会えるが修行は厳しい。それに百恵は霊能力者になりたくない。将来は編集者で働きたいと思っている。百恵は言った。 「遊びに行くのならいいけど修行はやだ。三日間断食したりするんでしょう。私は食べるのが趣味だもの」 「断食も身体が綺麗になったようで気持ちがいいんだよ。それに霊媒師の娘なら妖怪くらい直ぐ分からなくちゃ。ま、ぬらりひょんは一日だけ置いてあげるけど、明日には出て行ってもらうよ。何処か山にでも住んで」  お母さんはお札を仕舞った。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加