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「ねえ、覚えてる?」
「ん?」
「君に付き合って下さいって言われた時の私の返事」
「私は、主役じゃなきゃ嫌なの!大丈夫?…だったよね?」
「そう…」
江ノ島が見える砂浜で海に背を向け彼に聞いた。海風が長い髪を顔に巻き付けてくれるからちょうどいい。
「そんな事急に聞くなんて、今日ここに呼ばれた時、予感はしてたけど」
海風が、向かい合う君の柔らかい髪の毛を後ろになびかせてくれるから、君の端正な顔立ちを目に焼き付けておくのにちょうどいい。
「ごめんね、もう君の舞台で主役演じるの疲れたの。ほら、あそこに止まってる車、今度の私の舞台」
海岸沿いの駐車場に止まってる高級車を指差した。彼は驚き振り返る。
「そうなの?」
「うん、ごめんね…焼きもち妬かれるから早く行って…」
まとわりつく髪の毛が涙で顔に張り付きそうだから慌てて海に向く。
波の音と砂を踏みしめる音、国道を走る車の音。三つの音が二つになった時。声を出して泣いた。
9つ下の君はもっと自由に飛べるはず。自由にしてあげなきゃなんて格好いい理由付けして、自分に嘘をついているのはわかっている。
君が同年代の友達といる時の弾ける様な笑顔を見て、いつか君がこの年の差をまの当たりに感じた時、自分が惨めになるのが怖かった。
ただ、もし君がこの先、私を嫌いになっていなかったのなら。君の思い出の中でわき役としていさせて下さい。
I will let you go ~ もう君は自由だよ~
そう海に呟いて、駅に向かって歩きだした。
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