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想真は祖父母の家に来ていた。
そして、一台のピアノの前にいる。梨子のピアノだ。
「想真。おばあちゃんたち、居間にいるからね」
うしろにいる祖母が心配そうに想真を見つめている。
「うん、わかった」
想真は振り返って、祖母に笑顔を見せる。彼の祖母は心配そうな表情のまま、部屋から出ようとして立ち止まった。
「そうだ。そのピアノ、ちゃんと調律してもらってるから、安心して弾きなさい」
立ち止まった祖母は想真に微笑みかける。
「ありがとう、おばあちゃん」
『調律されているってことは、このピアノはおばあちゃんにとっても、大切なものなんだな』と考えて、想真は嬉しくなった。
一人になった想真は背負っていたリュックをピアノの椅子の脇に置いて、その椅子に座った。想真は懐かしい気持ちになった。
そっとピアノのフタを開くと少しほこりっぽくて、想真はそれもまた懐かしく感じた。
「……お母さん」
そう呟きながら想真は、無意識に両手をピアノの上にのせて音を鳴らしていた。弾き始めていたのは、梨子の伴奏に合わせて想真と幸成が歌っていた思い出の曲。そして、想真はピアノの音に合わせて歌い始めていた。
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