ビッグマック

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 僕は夢の中で坂道を歩いていた。これは夢なのだと、夢の中で確信していた。僕が歩く坂道は、洞窟の中だった。ゴロゴロとした岩でできた洞窟で、頭の上でいくつもの大きな岩が僕を見下ろしていた。だが足元には岩はなく、土でできた平らな道だった。ここを歩くようにと導くような完璧な道だった。  僕はこの坂道を登ってどこに向かっているのか?そう問うと答えが頭に浮かんでくる。突然家を出て行ったガールフレンドを追いかけていた。一緒に住んでいた家を彼女は突然出て行った。僕は彼女にもう一度会いたくて、この坂道を登っている。  坂道が突然終わる。目の前には広大な草原が広がっている。草原の真ん中に人の影が見える。それは彼女だった。僕は走って彼女のもとに駆け寄る。足音に気づいて彼女は僕の方を見た。「君を迎えに来た。一緒に帰ろう」「そんな簡単に帰れないの。ここの神様に帰っていいか訊かないと」と言って、彼女は足元にある階段を降りようとする。「あ、この中は絶対に見ちゃダメだよ」と階段を降りていく。そして下から蓋を閉めた。  1時間待っても彼女は出てこなかった。痺れを切らした僕は蓋の隙間から中を除く。暗くて何も見えないので、近くにいた蛍を捕まえて、蛍の光で中を照らす。中では彼女がペンで白い紙に何かを書いていた。僕の角度からは彼女の頭しか見えない。でも、僕の視線に気づいたのか、彼女がこちらを見る。その顔は僕が好きになったものではなかった。目と鼻と口が、丸い顔にバラバラに配置していた。目は赤く血走り、鼻は鬼の角のように尖り、口は後頭部まで広がっていた。もう人間でなく醜いバケモノだった。 「見てはいけないと言ったでしょう!」とバケモノは叫び、僕の方へ走ってきた。僕は咄嗟に走って逃げた。走りながら振り返るとバケモノは火を吹きながら追いかけてくる。草原を抜けて坂道に差し掛かってもバケモノは諦めない。僕は下り坂を走りながら、何かバケモノに攻撃できるものを探す。丸い物がおちいていたので、それを手に取って投げようとする。石だと思ったそれは、柔らかく紙に包まれていた。バケモノに投げると、紙の中からハンバーガーが出てきた。バケモノはそれを見ると、足を止めてハンバーガーを美味しそうに食べた。落ちている他のものを見ると、「ビッグマック」と書かれている。洞窟の中にはビッグマックが無数に落ちていた。石でできていると思われた洞窟はビッグマックの洞窟であった。僕はビッグマックをいくつもバケモノに投げ、全力で坂を駆け降りた。  そこで僕の夢は終わる。ただいまー!というガールフレンドの声で目が覚めたのだ。現実の彼女は綺麗な顔のままで、イオンに出かけていただけだった。「マックでハンバーガー買ってきたよ。あなたはフィレオフィッシュだったよね」と机にハンバーガーを置いてくれる。僕は彼女をじっと見る。「何?なにか顔についてる?」そう言う彼女の手からはビッグマックの包みが覗いていた。彼女はずっとビッグマックが大好きだった。ビッグマックを美味しそうに彼女は頬張っていた。
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