盗まれたへそくり

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へそくりの現場を見たのが関係良好な夫妻ならそれ程問題にはならないのかもしれない。 だが先程お金のことで揉めた二人であり、常日頃から不満を溜め込んでいる父が黙っていられるはずがなかった。 「おい! 何だよそれ!」 「貴方ッ・・・! こ、これは違うの!」 母は必死に背中でへそくりを隠そうとする。 だが封筒はともかくとして、持っていた現金は手の間から見えてしまっている。  封筒もろとも隠しながらタンスの中へと押し込んではみたものの、既に見られてしまっているため時既に遅しである。 「何が違うって言うんだよ!? それはどこの金だよ!! 俺が稼いだ金だろ!?」 「ち、違う!」 「俺が稼いだ金でろくでもないものを買おうとしてんだろ!? 俺の金だけは制限して、お前はこっそりと金を溜め込む。 ふざけたことをするなら全て返せ!!」 父は母を追い込んだ。 母は追い詰められタンスに背中を預ける。 「だ、だから違うって! これは私が稼いだお金なの!!」 金四郎は後ろ目で両親のことを見た。 母の言葉を聞いて父の顔色が変わる。 父は母が仕事を始めたという話は知らないのだ。 「はぁ? 変な在宅ワークでも始めたのか!?」 「変なって何よ!」 「どうせ怪しい仕事でも始めたんだろ? 詐欺まがいの仕事じゃないだろうな!?」 「在宅ワークというだけで悪く言うなんておかしいわ! 至極まっとうにお金を稼いでいるだけよ」 金四郎は視線をテレビへ戻し心の中で溜め息をつく。 「まっとうな金をこっそりと隠しているということだな。 不倫でもして金が必要なんだろ?」 「どうしてそうなるのよ!」 「俺に言えないことをしていたんだから、怪しいに決まっているだろ!」 「変なことじゃないって言っているでしょ!」 母は隙を見て逃げた。 だが父が逃がすわけがなくすぐに捕まってしまう。 ―――逃げるから余計に怪しまれるんだよ・・・。 「俺とお前の間では秘密はなしだったはずだ。 互いにそう約束をしたよな?」 「・・・」 「十六年間の辛抱だって言っただろ」 ―――十六年間・・・。 その言葉に金四郎は反応した。 だが気にしないフリをしてゲームを続ける。 「どうして稼いだことを隠していた?」 「それは・・・」 父は再び母を追い詰める。 「俺の全財産は全てお前が管理している。 お前は俺からの信用を失ったぞ」 「ッ・・・」 今日もただの軽い言い争いだと思っていた。 だから気にしなかった。 このようなことは日常茶飯事であるし、喧嘩はしてもいつの間にか収まっていることが多い。  それは仲直りしたわけではないかもしれないが、決定的な仲たがいではないと思っていた。 母は思い切り父の腕を振り払いお金を握り締め逃げようとする。 「逃げんなよ! 逃げても無駄だぞ!!」 ―――・・・いつも以上に、二人の声が大きい。 何となく違和感を感じた。 怒鳴り声が上がる度に反射的にビクリと反応してしまう。 再び父に捕まると母は必死に抵抗していた。 ―――流石にお父さんからは逃げられなさそう・・・。 金四郎は見ていないが背後で何が起きているのかは空気だけで伝わっていた。 ―――今日の喧嘩はいつもより長いな。 金四郎は二人の怒りが収まるのを静かに待っていた。 だがいつになっても収まる様子はない。 ―――いや、それどころか・・・。 嫌な予感しかしなかった。 その予感が見事に当たってしまう。 いつの間にか父の怒りはヒートアップしついに手まで出し始めたのだ。 「ッ・・・」 強烈なびんたをする音に金四郎は肩を震わせる。 咄嗟に振り返って二人を見た。 何度も顔を叩き始め、握った金を奪おうと迫る。 「お、お父さん・・・ッ!」 自然と声が出ていた。 止めた方がいいのだろうか。 そうは思うが、金四郎にはどうすることもできなかった。 ―――ど、どうしよう・・・。 迷っていると父が母に掴みかかった。 ―――それ以上は! 怪我人が出るのかもしれない。 そう思い立ち上がろうとしたその時だった。 「キャッ・・・」 父は母を思い切り突き飛ばした。 軽く吹っ飛ばされ尻餅をついた母はテーブルの角に頭をぶつけた。 「「ッ・・・」」 その瞬間金四郎と父は同時に息を呑んでいた。
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