盗まれたへそくり

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母が倒れて短くない時間が経ったが全く動く気配を見せない。 頭から流れる血は次第にその面積を増やし鉄臭い臭いを辺りに広げた。 父の感情に任せた力は不運も相まって母の命を絶ってしまっていた。 「はぁッ、はぁ・・・ッ」 父の呼吸が荒く酷く動揺した表情だ。 「おとう、さん・・・?」 金四郎はこの後どうするのかを父に聞きたかった。 もっとも父は取り乱してしまい、金四郎に構う余裕はなかった。 「ち、違う! こんなはずじゃなかった・・・。 こんなことになるとは思っていなかった!」 「・・・」 父は首を大きく振って金四郎に訴える。 だが金四郎は何も言うことができない。 自然と金四郎の足は母の方へと向かっていた。 「来るな!」 「ッ・・・」 父から怒鳴られることは滅多にない。 そのためその声には驚いてその場に固まった。 ―――お母さん・・・。 ―――死んじゃったの? 母がぐったりと床に横たわっていて、以前テレビで見た動物の亡骸のように横たわっている。  ―――これが人の死ぬ姿? 立ち止まったまま母を冷静に観察した。 以前から少しばかり興味があった。 死んだ生き物を間近にして見るのはどういうことなのだろうかと。 金四郎は死体を目の前にし多少動揺したがそれだけだった。 力を失った手を握り何の反応もないことを確かめている。 まだ時間が経ってないためか温もりは十分にある。 「・・・お母さんをどうするの?」 尋ねると父は考えてから言った。 「・・・お母さんを隠そう」 「隠す?」 「あぁ。 このままにしておくわけにはいかない。 お父さんが運ぶ」 「ぼ、僕も手伝う!」 自然とそう口にしていた。 近付こうとすると父がそれを制する。 「金四郎は関係ない。 何も見ていないし何も手出しをしていない。 もし見つかることがあって、誰かに何か聞かれてもそう言うんだ。 何も知らなかったと」 「でも・・・」 床とテーブルには母の血がべったりと付いていた。 父が母を運ぶのなら汚れた場所を掃除しようと思った。 それなら何も問題ない。 ただ汚い場所を掃除するだけなのだから。  金四郎は何も言わずに頷く。 「ありがとう」 父は本当に殺すことまでは考えていなかったのだろう。 父の身体はずっと震えていた。 「二階の銅乃の部屋にでも移動させるか・・・」 それに声も震えている。 父は母を抱え二階へと上がっていった。 ―――・・・こういう時、普通はどんな感情を抱くんだろう? そのようなことを考えながら金四郎は濡れタオルを取りにいった。 床やテーブルに付いた血を拭き取っていく。 ―――温かい・・・。 ―――人の血って、こんなにも温かいんだ。 ―――まだお母さんが生きているみたい。 ―――お父さんに運ばれたお母さんは、もう冷たくなっているのかな? 血は温かくどこか気持ちが悪かった。 一通り血を拭き終えたところで父が戻ってきた。 父の服は母の血で染まっていたため、どうしても目が行ってしまう。 「金四郎、どうした?」 元々の服の柄と一緒になり、中々に独特な模様となっていた。 「あぁ。 着替えてこないとな・・・。 金四郎の服は汚れていないか?」 金四郎の全身を確認する父はどうやら落ち着きを取り戻したようだ。 汚れていないのを確認すると父は着替えに行く。 金四郎は血を拭き終えたタオルをキッチンで洗った。 赤い色が流れていく。  だがなかなか汚れが落ちなかった。 「そのタオルは捨てよう」 戻ってきた父は洗っていたタオルを奪い取ると先程来ていた服と共にゴミ箱へと投げ捨てた。 投げやりになっていると思った。 冷静に見えるが頭の中は混乱しているのかもしれない。  時間を確認し正午を過ぎていると分かり、父は昼食の提案をした。 やはり頭の中が整理できてないらしい。 「金四郎。 昼はどうする?」 母が死に、その血を拭いた後で食欲なんてあるはずもなく、首を横に振るしかなかった。 「・・・だよな。 お父さんも食欲がないんだ」 再び沈黙が訪れる。 ―――これからどうするんだろう? 流石にこのような状況でゲームや勉強をする気にはなれなかった。 人を殺すようなゲームをすれば何か感じるものがあるかもしれないと思ったが、頭を振った。 母の死は既に終わったことなのだ。  今はもう他のことを考えなくてはならない。 互いにその場に固まったままでいると突然家のチャイムが鳴った。 二人同時にビクリと肩を震わせる。 「驚いたな・・・」 小さな音でも互いに敏感になっていた。 「金四郎はここで待っていなさい」 その言葉に金四郎は頷いた。 父はリビングから出ていき玄関へと向かった。 ―――こういう時って誰が来るんだろう? ―――警察とか? ―――でも、誰にも見られていないし・・・。 ドラマをよく見ているためそのくらいしか思い浮かばなかった。 だが警察にバレる原因が分からない。 しばらくすると玄関から父の悲鳴が聞こえてきた。
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