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➖現在①➖
「福子さん、これも試作しておいてください。予算のことなら加藤に話して」
「はい、次の来社日までにやっておきます」
「では、よろしく」
はぁ、やれやれと打ち合わせが終わる。
この大きなプロジェクトの取引先の責任者が榊原さんだった。
定例の打ち合わせが終わった後、私はこの人と待ち合わせている。
誰にも内緒のお付き合い。
ぴこん🎶
『今日は予定通りでいいですか?』
「はい、名駅の時計の所で、18時」
それだけ送信して、急いで追いかける。
久しぶりのデートにワクワクが止まらない。
何を話そうか。
榊原さんが予約してくれたイタリアンのお店で、赤ワインを飲みながらのおしゃべり。
「その頃出会っていれば、ぼくはまだ独身だったので福子さんのことを略奪していたかもしれません」
「ホントに?」
「そうです。ぼくの恋愛や結婚には、そんなドラマチックなことは何一つなかったので、そこで出会っていればおそらく…」
ワインの飲み過ぎだろうか。
そんな夢のような想像話が榊原さんから出るなんて。
「タイムマシンがあったら、戻ってみたいですね、そして、榊原さんと出会う」
「おもしろそうですね」
「でも、その場合、今こうしているという記憶がないと出会ってもすれ違うかも?」
「じゃあ、こうしましょう。おぼえておきましょう、今こうしていることを。そうすれば出会った時に、感情が湧き上がって…」
「略奪してくれるんですか?」
「今のこの気持ちのまま、戻ることができたら、ですがね」
そんな話。
好きだなぁ。
好きで好きで好きで好きで好きで好きで
好き過ぎてたまらない。
もっと早く出会っていたら?
どこかに落ちてないかなぁ?タイムマシン。
ほろ酔い気分でタクシーで帰った。
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