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残酷な戒め
女性と違って乳房の僅かな膨らみすらない胸なのに、独特の弾力としなやかさの或る胸と息を吹きかけただけで立ち上がる。
そのまま薄いベージュの乳首に長くぶ厚い舌を這わせて、獣が獲物の血肉を啜るぐらい浅ましくべろべろと舐め上げていくと、ヴィティスは甲高い嬌声を上げて悩ましく腰をくねらせた。
ヴァルに身体中愛撫を施され、すでに天を突いていた細くも長いヴィティスの切っ先がじわりじわりと純白の下履きにシミを広げる。
むわっとまた濃厚な甘い香りが部屋中に満ちてきた。
大きく張りつめきつくなったヴィティス自身をヴァルが大きな手で掴み摩ると、くいっくいっと細腰を上げ動かし、もどかしそうにヴァルの掌にそれを押し付けてくる。
全体が金色に染まった瞳に溜まった大粒の涙が煌き、ともすればヴァルを睨みつけながら快感を追おうとするその姿は浅ましさよりも、同時にヴィティスという人物の貪欲で生き生きとしたエロティシズムを感じる。
「やらしい動き……。もっと……。気持ちよくなりたい?」
「気持ちいぃ……、あっ。ああ……」
布越しに一撫でするごとにびくびくっと生き物のように手の中で蠢く。
それを捏ね回すと、ヴィティスは唇をわななかせて半分怒ったような声を上げた。
「もっと! もっと触って! 触ってよ」
素直で明け透けな告白に、ヴァルはにやりと野性味すら感じる笑顔で応じると、すでに自ら脱ぎ去ろうとズボンに手をかけていたヴィティスの腰を持ち上げてそれを助けた。
ぶるんっと身体の割に長く細い綺麗な色合いの竿が元気よく飛び出してきて、長い脚でズボンを遠くに蹴り上げるように飛ばそうとしたその細くも筋肉質な美しい脚をつかみあげ下履きごと脱がせてやった。
男同士同じものがついているはずなのに、ヴィティスの身体にあると別のもののように色っぽく見えるから不思議だ。
髪と同じく黒々としつつも量は薄めの下生えはすでに滴る雫でぐっしょりと濡れ、はあはあと荒くも甘い吐息を漏らす赤い唇があまりにも淫靡で誘われるままにヴァルは唇を重ねていった。
日頃女性にキスを仕掛ける時ならば、初めはなるべく優しく柔やわと唇に触れ、髪にを梳き壊れ物のように耳を撫ぜ官能を高め合い、徐々に盛り上がってきたら舌を差し入れ……、などと順序をそれなりに追ったかもしれない。
しかし今や頭から兄の悪友に吹き込まれたそんなイロハは全て吹き飛んでしまっていた。
ヴァルの大きな掌にすっぽりと覆える小さなヴィティスの頭をがっしりと掴み上げ、風に揺れる花のように赤くふるふると僅かにわななく唇に噛みつくように口づけていく。
あの怜悧でつんとした日頃の様子からは想像がつかないと驚くほどに積極的に応じてくる。
柔らかな舌と舌を絡めあい、うまいものを味わう時のように滴る唾液を交換し合う。
同時にヴィティスが健気に押し付けてきた陽物をすりすりと硬い掌で擦ってやると、僅か数回で身悶えた後にヴィティスはすすり泣きながらあっけなくはてた。
興奮から肩が上下に動くほど息を弾ませたヴァルは、びくびくっと震える身体がまだ収まらぬヴィティスの脇を大きな両手で包み込むようにした後、細い身体の線をなぞるのを楽しむように腰まで撫ぜ下ろす。
そのまま柳腰の一番細い部分を掴み上げて顔の前に近づけ、太ももの付け根をじゅっと吸い上げた。
「あんっ」
快感に弱く溺れやすい質なのか。
日頃の冬の宵の月のように神秘的で冴え冴えと冷たい雰囲気を鳴りを潜め、赤い舌をぽってりとした唇からはみ出させ舐め上げる仕草は淫靡を極めていた。
ヴァルはヴィティスの柔腰を離して上にずり上がる。
もう一度弾力がありつつもふんわりと柔らかな唇を吸いながら、ヴァルはヴィティスの中にある自身の切っ先を収めてもらえる熱い鞘をまさぐるように探していった。
肉が毬のように弾む尻の間を沿うように探し出した蜜壺はすでに柔く充血し潤み切り、ヴァルの太く長い中指を難なくぬるぬると収めていく。
中はしっとりしつつ燃えるように熱く、たまにきゅっとヴァルの指をはんで絡みつき締め上げてくる。
その熱い泥濘の心地よい感触にヴァルはぐるると喉を唸らせながら獲物を食んだ豹のように満足げな笑みを口元に這わせる。
(これがオメガの中? 熱い……。とろとろだ)
もう若く精悍なヴァルの頭の中はヴィティスの中に押し入りたい衝動で埋め尽くされた。
捻り上げたら折れそうなほど細い腰をくねらせ、女性のものとは違う、筋肉の着いた長い腕を伸ばしてヴァルの頭を引き寄る。
唇を半ば開け赤い舌でそれをわざと歪めるように舐め上げ、誘惑するように粘膜を見せつけながら口づけを強請る。
男を惑わせるヴィティスの妖艶な動きに若いヴァルの心はさらに燃え上がった。
膝裏を掴み上げ、内股の薄く敏感な皮膚を狙って舐め、もっちりと柔らかい噛みつきたい衝動をぶつけるように順々と目に付くところ全てに甘噛みを繰り返す。
欲望のままに馨しく美しい肌を穢し噛みつき続けたならば、大変なことになってしまうことは頭の隅では分かっていた。
しかし全身を駆け巡る昏く逆巻く炎のような情動を抑えることがとてもできない。
ところが流されてばかりだと思っていたヴィティスが、ふいにヴァルの弾力のある筋肉が盛り上がった胸に唇を寄せると、真珠のように綺麗な白い歯を剥いて噛みついてきた。
その仕草にかっと目の前が真っ赤に染まるほど興奮し、見下ろしたヴィティスは正気と狂気の狭間にいるような、美貌の魔性のような凄艶な顔をして唇をヴァルの鮮血で染め挑発した。
「こいよ!」
ヴィティスは低くも響く滑らかな声で高らかにそう叫んだ。
褐色の肌に珠の汗を滴らせ、上気した頬、息を弾ませながらも、確固たる意志をもっとヴァルに命じる姿は獣の女王のように力強くそして圧倒的に美しい。
かっと目を見開き、互いに獲物を狙う野獣のような目つきで互いを舐めまわすように見つめあう。
血走った眼で自分を見おろすヴァルを、ヴィティスが黒揚羽が羽を広げるようにさらに大胆に自ら脚を開き、ヴァルを誘い込もうと力強い踵の蹴りが乱暴にその逞しい背を押す。
腰を引き寄せたら背中に手を回され悩ましく爪を立てられ引き裂かれた。
「ヴァル、お願いぃ!」
「チッ」
ヴァルは盛大に舌打ちをした瞬間、あれだけヴィティスを護ろうとした硬い意志はもろくも崩れ去り、ヴァルはもう躊躇せず定めたヴィティスの蜜の溢れ零れる源を一気に挿し貫いて行った。
「ああっ!! あああああ!」
船内にヴィティスの悲鳴に似た喘ぎ声と、肉と肉がぶつかるバンバンと激しい破裂音がひっきりなしに繰り返される。
初めから高速のストロークで繰り返される注挿は苛烈さを増し、ラットに入り込みかけたヴァルはヴィティスの肩に手形がつくほど強く押さえつけながら腰を振り続けた。
重たく太く長いヴァルの逸物はみちみちとヴィティスの中に収まり、ヴィティスの良いところを野蛮で乱暴に摺り上げていく。
無間に繰り返される快感は初めて男を受け入れたヴィティスにはあまりに強く、苦し気に瞑目したヴィティスはそのたび射精し、どろどろとした白濁を何度も何度も放ち続けては気をやりかけた。
黒髪を寝台に広がったまま乱れきり、腰をヴァルの大きな手でがっしりと背中より上向きに抱えられていたため、腹や臍にわだかまっていた白濁が褐色の胸にだらだらと垂れかかる様はあまりにも艶っぽい。
その雫はさらにどろりとヴィティスが首に着けたままにしている金色の首輪にまで至っていった。
(……こんな首輪つけられやがって)
ぎりっと唇を嚙みしめたヴァルにはもう、ヴィティスは自分が奪い噛みつき犯し尽くしべき獲物にしか見えていない。
ぐるるっと唸ってアルファらしい大きくとがった犬歯を見せつけると、ヴィティスは半分目を開け、色っぽい顔でヴァルを見つめ返すと、淫蕩な笑みを唇に這わせた。
まるで『噛めるものなら噛んでみろ』と挑発しているような意味ありげな魅惑的な微笑にヴァルはいつまでも硬いまま放つ気配のない腰をぐりぐりっと奥まで押し付けた。
「やあああ!!」
最奥まで犯され再びぷしゃっと水っぽいものを放ちながら痙攣した身体をヴァルはひっくり返し、伏して眠っているような体勢に変えてから頭を抑え込むと黒髪を手荒く引っ張り払いながら項を晒させようとした。
(噛みたい噛みたい噛みたい! 喉が焼けつく!!)
しかし当然ほっそりした首筋は金色の首輪に阻まれヴァルの目の前に現れることはない。
ヴァルは再び大きく舌打ちをすると、無意識に首輪を引きちぎろうと、無理やり手をかけた。
その瞬間、形を変えた首輪がぎゅっとヴィティスの首を締め上げると、ヴァル自身はぎゅっと絡みついてきたヴィティスに搾り取られて目も眩むような快感に堪らずに果てた。
それでも噛みたい衝動を反らすことが厳しく、ヴァルはぐったりとしたヴィティスをこれ以上は傷つけまいと、自らの左腕に深々と噛みついてその痛みで血の味で正気を取り戻そうとした。
「くっ……」
痛みで顎の力に手心を加えかけたが、ヴァルは懸命に虚空を睨みつけると、ぐっと牙を腕に突き立てた。
幸い鮮烈な痛みと、一度ヴィティスの中に放ったおかげで少し頭に登っていた血潮がさあっと引いてくる。
そしてようやく組み敷いていた細いヴィティスの身体がだらりと力を失い、息をしていないということに気が付くことができた。
「……ヴィティス? ヴィティス!! しっかりしろ」
幸い格闘技の選手であるヴァルには覚えのある状態だった。
締め技で失神した相手選手の状態に非常によく似ているのだ。
(この首輪……。力の加え方を誤まると変形して首が閉まるのか?)
そんな非人道的なものをつけられて、いいわけがない。
ずるりっと自らを引き抜くと、ヴィティスの肛門がひくつきながらヴァルの放ったものを吐き出してくる様に魅了され、再び硬さを取り戻しそうになる。
しかし自分自身の顔をぴしゃんっと張りつけて気合を入れた。
(ヴィティスの香りが収まってきたし、俺は完全にラットしてない。ラットしてたりヴィティスが発情期に入ってたらこんなもんじゃすまないはずだ)
早くヴィティスを介抱しようとそのことに集中してどかっと寝台に座りなおす。
膝の上にヴィティスを抱え上げて胸郭をぐいっと広げるような体勢をとらせた。
少したってヴィティスが身じろぎしたのにほっとすると、ゆっくりと彼を寝台の上に横たえて、ヴァルはヴィティスの残滓に汚れた身体を、備え付けの手巾で丁寧に拭ってやった。
凌辱の痕に近い全身に散ったヴァルの噛み痕、涙の跡が残る寝顔はとても稚く頼りなげに見える。
深い後悔の念に襲われ、ヴァルは暗がりに鈍く光る髪をかきむしってからどんっとわざと血が滴り痛む方の腕で自分の膝を打った。
「クソっ、クソっ、クソ!!!」
(どうして我慢ができなかったんだ! どうして自分との勝負に負けた? 誘惑に打ち勝てなかった?)
あれほどヴィティスを護ってやろうと誓ったのに、結局自分がヴィティスを貪る獣に成り下がってしまった。
「すまない、ヴィティス。お前を護ってやれなかった……」
小さな顔に震える指先を這わせると、ヴィティスの頬を慰め撫ぜて許しを請う。
黄金の高貴なチョーカーが、まるで彼を隷属させる悪魔の道具のように思え、ヴァルは決心した。
(誰かは分からない。もしかしたらお前が愛している相手がくれたもので、余計なお世話かもしれない)
しかし明らかにヴィティスの首は戒めのように締め上げられ、彼は苦悶し意識を失ったのだ。
それは紛れもない事実。
ヴィティスにこれをつけた相手は、確実にこのことを知っているはずなのだ。
未成年の彼にこんなものをつけて縛り付けようとする相手が碌な奴でないことは明白だった。
もちろんヴィティスを穢してしまった償いはどうあってもとろうとは思っていたが、その一つとしてヴァルはこの時誓いを立てたのだ。
(こんなもの人につけていいものじゃない。なんとかして俺が外してやる)
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