【 第9話: 花嫁がいない 】

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【 第9話: 花嫁がいない 】

「お父さん、おはようございます。あれっ? 千歳は一緒じゃないんですか?」 「えっ? まだ到着してない?」 「はい……」 「私はてっきり、先に家を出たもんだとばかり思っていたが……」 「おかしいですね……。何かあったんでしょうか……」  結婚式場では、準備が淡々と進められていた。  でも、肝心の『』がまだ到着していなかった……。 「お父様ですか? 千歳様は、今どちらでしょうか? 花嫁さんのお衣装やお化粧の準備が整っているのですが……」 「どこへ行ってしまったんだろう……」 ――「はぁはぁはぁはぁ……。(早くしなきゃ……)」  私は急がなきゃならない理由がある。 「はぁはぁはぁはぁ……」  朝日を正面に受けながら、左手に濡れた2足の赤い靴と、右手にそれを握り締め、濡れて重くなっているスカートに裸足のまま、冷たくなったアスファルトの上を走っている。  真冬の道路は、冷た過ぎる。  足の裏の感覚は、既にない。 「はぁはぁはぁはぁ……」  でも、私には急がないといけない理由があるんだ。 「はぁはぁはぁはぁ……」  お父さんに……、お父さんに、どうしても謝りたい……。  あの時のことを……。 「はぁはぁはぁはぁ……」 『バンッ!!』
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