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【 エピローグ: お父さんの大切なキラキラ 】
「お父さん……」
「千歳……、どこに行ってたんだ……。靴も履かずに裸足……で……」
私は、お父さんが最後の言葉を言う前に、抱き付いていた。
「お父さん、ごめんなさい! 私……、お父さんが大事にしていた、お母さんの結婚指輪を失くしたのは、私だったの……! ごめんなさい! 本当に、ごめんなさい……! うわぁぁーーっ……!!」
すると、お父さんは、私を強く抱きしめ返し、私の頭を右手で撫でると、いつものやさしい笑顔でこう言った。
「千歳……、そうだったのか。でも、もうそんな遠い昔のことなんて、気にしていないからいいよ」
お父さんはいつもと変わらず、やさしく私を許してくれた。
「でも、あったの……。お母さんのキラキラ……。少し汚れちゃったけど……」
手に持っている汚れてしまった結婚指輪をお父さんに見せる。
「もしかして、千歳……。これを今まで探していたのか……?」
「うん……、ごめんね。お父さんの大切にしていたお母さんの結婚指輪、長い間、川の中に落ちていたから、随分と汚れちゃった……」
「そんなの、大丈夫だよ。綺麗にしたら、また昔のようにキラキラ光るよ。お母さんも喜んでくれるさ」
「うん……」
お父さんは一度私の肩をポンとやさしく叩き、涙を目にいっぱい溜めながら笑った。
「さあ、花嫁さんは、そのずぶ濡れ姿から、お色直ししないとな」
「うん、ありがとう……、お父さん……」
私は、零れる涙をそのままに、もう一度、お父さんに強く抱きついた。
――そして、純白のウェディングドレスに着替えると、お父さんと二人並んで教会の扉の前に立った。
まもなく、その扉が開く。
「お父さん、これ綺麗にしたお母さんの結婚指輪。遅くなっちゃったけど、お父さんに返すね」
「千歳、お前は、若い頃のお母さんにそっくりで、とても美人だな。これは、今日一日、千歳に付けておいて欲しい」
お父さんは、そう言うと、お母さんの結婚指輪を私の右薬指に、やさしくスッとはめてくれた。
「右の薬指は、心を穏やかにし、恋愛運をアップさせる効果があるらしいぞ」
「うふふ、その効果、もうすぐに出そうね」
私とお父さんが二人笑って顔を見合わせていると、その扉は開いた。
今日、私は本当の意味で、お父さんの元を離れ、巣立っていく。
28年の時を超え、きっと、お母さんが最後に繋ぎ止めてくれたんだと思う。
私とお父さんの絆を……。
お父さん、お母さん、ありがとう……。
千歳は、お母さんの分も長生きするよ。
そして、これからお父さんと仲良くやっていけそうな気がする。
このお母さんのキラキラがあれば……。
『キラッ……、キラッキラッ……★』
(了)
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