【 第1話: 父の作ったお弁当 】

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【 第1話: 父の作ったお弁当 】

「お父さん、やめて!」  私が高校生の頃、こんなことがあった……。 「どうした……? 『千歳(ちとせ)』?」 「何でこんな恥ずかしいことしたの!? 海苔で気持ち悪い人の顔を作って、お弁当に入れないで!」 「千歳の顔を海苔で真似て作ってみたんだが、似てなかったか……?」 「似てないどころか、気持ち悪いって、みんなに笑われたじゃない!!」 「そ、そうか……、それは悪かったな……」  あの頃、私とお父さんの関係は、多分最悪だったと思う。  私が喜んでくれると思って、毎日お弁当を色々工夫して作ってくれていた。  でも、年頃の女の子とは、やはり、何かズレていて、それが私にはすごく恥ずかしかったんだ。  ウインナーの片方の端が、沢山切られたもの……。  多分、お父さんは、『タコのウインナー』を作りたかったんだと思う。  でも、そのタコの足は10本以上あり、しかも丸焦げ。  それはまるで、真っ黒な疑似餌(ぎじえ)だ。  お弁当のおかずは、綺麗に仕切ることはされておらず、いつもグチャグチャに混ざっていた……。  男と女の感覚の違いだろうか、何故か不器用で、大雑把な感じ。  私は、普段、お父さんとはほとんど会話をしない。  こんな、何かあった時に、私が怒るくらいしか、ほとんどしゃべらなかった。  私が怒って、弁当箱をダイニングテーブルの上に、ドンと置いても、それを黙って、お父さんは綺麗に台所で洗ってくれる。  そんな背中を見るのも、私はその当時、とても辛かったんだ。  だから、私はすぐに2階の自分の部屋へ上がっていき、お父さんと会話なんてしなかったんだと思う。  何故、こんな関係になってしまったんだろう……。  何度もそう思っていた。  それでも、お父さんは、私に対しては決して怒らなかった。  その理由は、何となくは分かっている。  お父さんは、必死だったんだ……。  お母さんがいなかったから……。
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