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【 第2話: お父さんの大事なもの 】
それでも、私が小さい頃は違っていた。
私も昔は、お父さんが大好きだった。
色々なところへも遊びに連れて行ってくれたし、本当にお父さんなりに頑張って、一緒によく遊んでくれていたと思う。
公園に行けば、鬼ごっこやボール遊びを一緒に楽しんだり、遊園地に行けば、お父さんの苦手なジャットコースターにも一緒に乗ってくれた。
お父さんは、工場勤務でいつも油まみれ。
その油の匂いが、私の記憶の中のお父さんの匂いと重なる。
お父さんの顔や手は、その油のせいか、いつも焦げ茶色だったのをよく覚えている。
私の中学と高校の時の入学式の写真には、皆、綺麗な着物やスーツ姿の親が写っていたが、お父さんだけはいつも工場の作業着姿だった。
私は、小学校、中学校といじめを受けていた。
それは、私にお母さんがいなくて、いつも汚れた姿の年老いたお父さんが学校へ来ていたから、クラスのみんなから『ばい菌』の子供と言われていたせいもある。
それでも、高校では強く生きようと決めて、色々なものに反抗的になっていたんだ。
「きゃあ!! お父さん、勝手に扉開けないで!!」
「ご、ごめん……、千歳……。悪かった……」
「この変態オヤジ!!」
『バシャン!!』
洗面所と脱衣所が同じだったこともあり、お父さんは私がいることも知らず、よく着替えている最中に扉を開けられた。
でも、今になって思うと、お父さんからしてみれば、ちょっと前まで一緒にお風呂へ入っていた親子なんだ。
――私はそれ以上に、小さい頃、お父さんをすごく困らせたことをした記憶がある……。
多分、その頃のお父さんにとって、一番大事にしていたものを、私が失くしてしまったからだ……。
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