【 第4話: 父離れ 】

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【 第4話: 父離れ 】

 私は高校を卒業すると、すぐにお父さんの元を離れ、東京の大学へ進学した。  その費用は、もちろんお父さんが全額支払ってくれていた。  アルバイトはたまにしていたが、高い学費や家賃、私が大学で遊ぶためのお金やコンパなどの飲み代、綺麗な衣服に高価な化粧品などのお金も全て、お父さんが支払ってくれた。  何も言わずにお金を出してくれるそんなお父さんに、私はずっと甘えていたんだ。 「何だ、またお金が必要なのか? 何に使うんだ?」 「そんなのお父さんには、関係ないでしょ! 女性は色々とお金がかかるの! いいから、私の口座へ振り込んどいて!」 『ツー、ツー、ツー……』  ――今考えると、あの頃の私は、本当にお父さんには申し訳ないことを平気でしていたと思う。  そんな私も就職して、お金の大切さを知った。  お金を稼ぐこと。それがどんなに大変なことかというのを……。  それでも、お父さんは何も言わず、私の銀行口座へ毎月10万円を必ず振り込んでくれる。  もう、それも丁度10年続いている。  お父さんとは、大学の卒業式以来、一度も会っていない。  会いたくなかった訳じゃない……。  本当は、会いたかった。  会って、今までのことを謝りたかった。  でも、どうしても会えなかった……。  それほど、私はお父さんにとって、(ひど)い娘だったから……。 「千歳の実家って、もうこの辺りだよね?」 「うん、そこのポストの角を左に入って」  今、私たちは車に乗っている。  運転席には、私の婚約者がいて、一緒に私の実家に行く途中なんだ。  そう、お父さんに会うために……。
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