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【 第6話: 父の実家で 】
その晩、私たちも父の家に泊まることにした。
10年ぶりの実家……。
こんなに、家の物が色々と小さく見えたんだと、不思議な感覚を私は味わっていた。
家具やテーブル、天井や窓……、どれも10年前よりも小さく見えた。
それは、お父さんも同じだった……。
田舎の夜は、静かだ。
静か過ぎて、耳の奥でキーンという音が聞こえるような気がする。
私は、布団に入りながら、この懐かしい実家の匂いとやさしい雰囲気を味わいながら目を閉じた。
――そして、次の日、車で帰る私たちのことを、見えなくなるまで、いつまでも、いつまでも、手を振り続けているお父さんがいた。
私も、車のバックミラーから見える小さなお父さんに、小さく手を振っていた。
「ねぇ、誠さん……、お願いがあるんだけど……」
「んっ? 何?」
「あのね……、結婚式なんだけど……、お父さんの実家の近くで式をしてあげたいんだけど……、いいかな……?」
「うん、そうだね。千歳がそうしてあげたいんだったら、僕はそれでもいいよ」
「ありがとう、誠さん。わがまま言ってゴメンね……」
「ううん、いいよ。お父さんのために、そうしてあげよう」
「うん……」
私たちはその足で、父の実家に近い結婚式場を探して、予約を入れた。
――それから、あっという間に時が過ぎ、結婚式の前日。
私は、少しだけ大きくなったお腹で、お父さんと二人きりで実家に泊まることになった。
お父さんは、嬉しそうだったが、何となくソワソワしている様子。
無理もない。明日、娘が嫁ぐのだから。
私がお風呂から上がると、お父さんは居間で一人お酒を飲んでいた。
その背中は、どこか寂しそうだった。
「お父さん、お酒注いであげる」
「あ、ありがとう、千歳……」
『トクトクトク……』
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