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【 第7話: 夢の中 】
「お父さん……、今まで、育ててくれて、本当にありがとう……」
「ああ、千歳が無事結婚できて、お父さんも少しホッとしているよ。お母さんとの約束だったからね」
「えっ? お母さんとの約束……?」
「ああ。お母さんが亡くなる前に、そう私に言ったんだ。あの子をお願いしますとね……」
その話は、初めて聞いた。
今まで、一度もお父さんはそのことを私には、言わなかった。
お父さんは、お母さんのその一言をずっと心の中に仕舞い、私を一人で育ててくれていたんだ。
私は言葉を失った……。
今日、改めて、お父さんの偉大さを知った……。
「さあ、明日の式の準備も早いから、今日はもう寝なさい」
「うん、分かった……。お休みなさい……」
私はスッと立ち上がると、3歩歩いて立ち止まり、お父さんの方へ振り返りこう口を開いた。
「お父さん……? また、泊まりに来るね……」
「ああ、いつでもおいで。待ってるよ……」
お父さんは、目を一本線にして、シワシワの笑顔で私にそう言った。
私は布団に入り、目を閉じると、明日の式のことを色々と考えていた。
しばらくすると、すぐに夢の中へと吸い込まれていった……。
その夢の中では、私はあの頃の6歳の自分だった。
いつものように、お母さんの仏壇から、あのキラキラを持ち出し、家の近くの河原へ向かう。
橋の横のコンクリートでできた階段を下り、石のゴロゴロとした河原へ出る。
今日も川の流れは緩やかだ。そして、太陽の光も眩しい。
私は、小さな手の中にある、お母さんのキラキラを、右手の親指と人差し指で持つ。
太陽の光に反射して、それは今日も綺麗だ。
でも……。
あの時と同じように、手からキラキラが滑り落ちた……。
『チリ、チリリン……』
「はっ!!」
私は、上半身を布団から起こすと、夢から覚めていた。
その時、私はやり残していたことを、はっきりと思い出したんだ……。
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