29.言霊ブレスレット

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「あぁ、言うとらんかったっけ? 別れた嫁に娘がおんねん。中学生の娘がな。これから高校やら大学やら養育費かかるやろ?」  ちょうど母親が亡くなった当時、村雨は恋人と同棲をしていた。同棲と言ってもほぼヒモのような状態で、一向にまともな職に就かない村雨を見かねた彼女から、最終的には捨てられたのだが。しかし別れた直後に彼女の妊娠が発覚し、子供のために婚姻関係を結んだが出産後すぐに離婚し、それからはずっと養育費だけを払い続けているのだと。  「娘さんには全く会ってないのか?」と虎我が問うと、村雨は懐から例のブレスレットを取り出して珠を指差す。 「まさか……この珠を作ってるのが、あんたの娘だってのか!?」 「そうや。そのまさかや。わいの娘、大したもんやろ!」  どや顔でエッヘンと胸を張る村雨。どうやら自分の娘に対する愛情は本物らしい。  村雨の娘はレジンアクセサリーを作るのが趣味で、その手作りアクセサリーを見ているうちに村雨は、「娘の作品が高値で売れないだろうか」と考えるようになった。そこで思いついたのがこの“霊能力者”という商売だ。つまり、霊感商法である。  別れた奥さんからは現在、娘への接近禁止命令を出されているようだが、村雨は懲りもせずに隠れてコソコソと娘に会っているらしい。 (ツッコミどころが多過ぎて、何を確認すればいいのか忘れたわ……)  与えられた情報量の多さに頭を抱え始めたその時、ジャケットの内ポケットから桜爺の「呪いの言霊ではないようじゃな」という声が聞こえた。 (そうだ。村雨がこのブレスレットにどう言霊を使ったのか、だ) 「村雨さんは、喜代さんや藤堂さんに何て言ってブレスレットを渡したんですか?」 「ん? そうやな……二人とも、『大切な人はすぐそばに居ます。これを付ければそれを実感できますよ』って感じやな」  それを聞いた俺と虎我は、思わず顔を見合わせる。村雨の言霊は、やはり悪意のあるものではなかったのだ。むしろ相手を慈しんでさえいる。だが…… 「この言霊で、亡き者たちが視えるようになったようじゃな」  桜爺の仮説はこうだ。村雨の『そばに居る』という言霊で、すぐそばに居た最愛の家族の霊だけが視えるような鬼の眼の能力を与えられたのだろうと。 (視えるものを限定するなんて、そんなことが本当に可能なのか? それに、そんな都合よく視たい人がそばに居るものなのか?)  俺の鬼の眼は、その場に存在する霊はことごとく視えているし、人畜無害な小物を含めれば、異形もそこら中に見えている。が、最も見たいと思っている五年前に亡くなった養母の霊には、未だに会えていないのだ。
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