29.言霊ブレスレット

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 霊というのは、皆ずっと同じ場所に留まっているわけではなく、生前と同じように行きたい場所へ移動ができるという。だがそれは霊によって、移動したいという意志があるかないかの違いだけなのだ。  だとすると、桜爺の仮説には少し違和感を覚えた。必ず自分のそばに希望の霊が居るとは限らないからだ。しかし、村雨の言霊で最愛の家族の霊が視えるようになったことは確かなようだ。  そしてその末路が、自殺である。 「村雨、この商売今すぐ辞めろ!」  虎我はたまらず村雨の胸倉を掴み上げていた。これは怒りからの行動ではなく、むしろ焦りからくる行動のようだ。このまま商売を続ければ、他にも犠牲者が出てしまうと感じたからだろう。しかし村雨は自身に言霊の能力があるなどとは夢にも思っておらず、ただただこの状況に面を喰らっている。 「虎我、落ち着け!」 「何だよ、きいっちゃん! こいつ今シメとかないとヤバいぞ!?」 「気持ちはわかるけど、とりあえず訊かなきゃならないことがある。村雨さん、他に同じような相談でブレスレットを売った依頼人はいますか?」  そう訊ねると、虎我はハッとして村雨を掴んでいた手を離した。これから犠牲者を出さないのも重要だが、今現在犠牲者になりかけている人間がいるとしたら、今すぐ自死を阻止しなければならない。 「な、なんで?」 「いいから早く思い出せ!!」 「そない急かされても……う~ん、誰ぞおったかな? いや、ちょっと待てよ。確か死産で悩んでたっちゅう女性がおったような……」 (死産? それどっかで……)  すると急に虎我が俺の両肩を掴み、「葵ちゃんだ! 葵ちゃんのお姉さんだよ、きいっちゃん!!」と言って前後に揺する。 「葵ちゃん? あ……」  凪の親友の内海葵のことだ。そう言えばファミレスで二人に会った時、葵の姉が村雨の太客だと聞いたのを思い出す。だからこそ凪は、本当に村雨が霊能力者か見極めるためにあのファミレスへ来ていたのだ。  俺たちのやり取りを終始ポカンとした表情で見つめていた村雨を残し、虎我と俺はそそくさと取調室を後にするのだった。 *  虎我の後に続いて駐車場に停めていたパトカーへと乗り込むと、「俺が凪ちゃん経由で連絡取ろうか?」と申し出た。 「いや、俺が直接葵ちゃんに連絡するからいいよ」 「ちょっと待て。何で虎我が葵ちゃんの連絡先知ってんだよ!?」 「だってこの前別れ際に、葵ちゃんとLINE交換したから」  あまりの急展開に開いた口が塞がらない。しかし虎我は「俺が警察官だから、もしもの時に助けて欲しくて訊いたんだろ」と、半笑いで葵に電話をかける。
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