29.言霊ブレスレット

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 葵の家は、閑静な住宅街にある洋風二階建ての一軒家だった。庭も家の雰囲気に合わせて洋風に整備されており、この家だけ見ればまるでヨーロッパの片田舎に佇んでいてもおかしくないほどだ。外門の脇にある表札も、ローマ字で『UTSUMI』と表示されている。  その表札すぐ下のインターホンのボタンを押すと、すぐに女性の声で「はい、内海です」と応答があった。虎我は身分を伝え、「詐欺被害の件で詳しい話を訊きに来たのですが……」と説明すると、玄関扉から四、五十代の細身の女性が姿を現す。 「先ほど葵から話は伺ってます。私が葵の母親です。どうぞ、お上がりください」  そう言うと葵の母は、俺たちを内海家一階奥のリビングまで案内した。  リビングは十二畳ほどの広さのフローリングで、陽光もよく入り明るい印象だ。大きなテレビと座り心地の良いフカフカのソファーがあり、全体的には白と緑と明るい木材の色で統一されていて、温もりを感じさせる。  虎我と一緒にソファーへ腰をかけると、彼女はお茶を淹れるために隣のキッチンへと向かった。キッチンはカウンター越しに中の様子が見れるので、リビングに居ても会話が出来る。  母親の話では、この家に住んでいる家族構成は夫婦と娘姉妹を合わせた合計四人で、今現在この時間に家に居るのは、母親と葵の姉の二人だけだった。虎我がそわそわしながら姉の様子を訊ねると、 「桃塚さんが心配されているようなことは、暫く起こらないと思いますけどね」 という返事が返ってくる。 (どういうことだ?)  疑問をぶつけるように虎我を見ると、彼も首を捻っている。  暫くするとキッチンから母親が、湯飲みを乗せたお盆を持ってリビングへ戻ってきた。ソファーテーブルの上へ静かに湯飲みを置いていき、それにお礼を言いつつ俺たちは湯飲みに口をつける。 「それで、その霊能力者とかいう人は、警察の方で逮捕してくださるんでしょうか?」 「詐欺容疑で……という話であれば、それは難しいかと思います。何せ被害を訴えている人が少ないので」 「被害届が少ないのであれば、私が娘の代わりに書きますので、どうか捕まえてください!」  その言葉には悲痛な思いを感じた。娘がただ高額なお金を巻き上げられただけなのであれば、こうはならない気がする。虎我もそれを感じたのか、葵の姉について詳しく訊ね始めた。  姉は名を双葉(ふたば)と言い、現在二十三歳で既婚者だという。大学で知り合った二年先輩の男性と昨年卒業と同時に結婚し、すぐに妊娠。それから八ヶ月が経過した二ヶ月前、お腹の子どもが突然死産した。原因は不明だった。
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