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死産後の一ヶ月間、双葉の失意は相当なもので、夫にも申し訳ないという気持ちからか、実家の自室に引きこもり自分を責め続けて泣き暮らしていた。夫の励ましや慰めも彼女には届かず、社会経験が少ないのも災いしてか双葉の精神は落ち込む一方で、この頃の方が自死してしまいそうな勢いだったという。
家族はどうしていいのかわからず、ただ時が解決してくれるのを待っていたが、彼女を心配した友人から評判のいい霊能力者を勧められ、双葉は村雨と会うことになった。
「霊視相談、でしたっけ? それから帰ってきた双葉は、とても晴れ晴れしたいい顔で、最初は凄い霊能力者だと思ったんですよ、その村雨さんて方。だってあの子、一ヶ月間ずっと泣いてたんですよ? それなのに一日で笑顔を見せるようにまでなって……」
それから暫くの間、双葉はとてもいい表情で微笑むようになり、以前より精神が安定したかに思われた。しかし彼女は、一向に夫の元へ戻る気配がなく、そのままこの実家で暮らし続けていたので、家族は違和感を覚えていた。
さらに月日が経つと双葉は、何故か乳幼児用の玩具やぬいぐるみを買ってくるようになり、哺乳瓶でミルクを作ったり離乳食を作って部屋へ持ち込むようになった。村雨とは一度だけでなくその後も何度か会っていたようで、気が付けば彼から購入したものがどんどん部屋に増えていたのだという。
「最近は、双葉の部屋から話し声が聞こえてくるんです。友人や大人と話している感じではなく、小動物や子どもをあやすような……」
そこまで言うと母親は、「見てもらった方が早いと思います」と言い、二階の双葉の部屋まで先導し始めた。階段のある玄関前までやってくると急に鍵の開く音がして、玄関扉から制服姿の葵と凪の二人が姿を現す。
「あら葵、早かったわね」
「だってお姉ちゃんのことが気になって……」
二人は午後の授業を終えると、急いでこちらへ向かったのだという。
葵は虎我の姿を見つけるなり、「虎我さん、来てくれてありがとう!」と挨拶した。姉を心配しているというよりは、何故かとても嬉しそうだ。一方俺は、彼女の後ろに立つ凪に向けて軽く手を振る。ペコリと頭を下げた凪は、親友が心配でついてきたようだ。
こうして二人と合流した俺たちは、改めて二階の双葉の部屋へと向かうのだった。
*
双葉の部屋の扉を母親がノックすると、中から「ちょっと待って。今おっぱいあげてるから」という声が聞こえてきた。
「あの子一体何を言ってるのかしら……」
母親が心配そうな顔で扉に手をかけると、咄嗟に葵が「待って! お母さん今開けちゃダメ!!」と、上からその手を押さえる。
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