29.言霊ブレスレット

38/45
前へ
/386ページ
次へ
「お姉ちゃんやめて!!!」  葵の悲痛な叫びで、双葉は動きを止めた。そしてゆっくりと周囲を見渡し、自分が今手に持っているものをまじまじと見る。すると次第に双葉の瞳から涙が溢れ出し、持っていたハサミの切っ先を今度は自分の喉元へと向けた。 「ばかやろう!!!」  そう一喝して、虎我が双葉の手元からハサミを奪い取った。双葉は全身から力が抜けたのかその場に崩れ落ち、葵と母親が駆け寄って両側から彼女を包み込む。 「お姉ちゃんが死んだら嫌だよぅ!!」 「我が子を失う悲しみは、今のあんたなら一番わかるでしょう!?」  双葉にしがみついて葵は泣き出した。母親も彼女をきつく抱き締めて、その手で何度も何度も頭を撫でる。声を殺しながらも、その目尻からは葵と同様の涙が溢れていた。  双葉は二人から与えられるぬくもりに、再び声を上げて泣き出した。でもそれは、我が子を失った悲痛な叫びなどではなく、彼女を心配する二人の存在に気づき、自らの行動を懺悔する叫びであった。
/386ページ

最初のコメントを投稿しよう!

206人が本棚に入れています
本棚に追加