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「え~と、なになに……『茜ちゃんて誰かと付き合ってるの? 凄いイケメンと一緒にいるとこ見たんだけど』って……え!?」
思わず語気が強くなりその場で固まっていると、虎我が「茜ちゃんて誰?」と無遠慮に訊ねる。それには「四歳下の従妹」とだけ答えると、俺はすぐさま電話をかけ直した。その間にも車内では、「従妹だって。凪ちゃんは知ってる?」、「いえ、全然」という会話が交わされる。
三コールほどした後で、多聞の『どした?』という呑気な応答が聞こえてきた。
「さっきのメール……」
『あぁ、茜ちゃんのこと? 凄いイケメンと一緒にいたけど、忌一君大丈夫?』
「それってもしかして色白の……」
『そうそう。何か全体的に色素が薄くて、それが清潔感あって凄くモテそうな爽やか青年だったよ。もしかして知り合い?』
(白井だ)
早くも茜とデートをしているのかと思うと、奥歯につい力がこもる。バイトを辞めた理由と同様で俺が茜に近づけないことをいいことに、白井は急接近しているのだ。人間でもない癖に。
『っていうか、君たちどうなってるの? 僕はてっきり君たちこそ付き合ってるんだと思ってたんだけど。二人を見たのどこだと思う?』
「道端……ですか?」
『いや、スーパーの中だよ。二人で仲良く食材選んでたんだよね。あれもう一緒に夕飯作る雰囲気だったよ?』
「え……」
その後のことはあまり覚えていない。どうやって電話を切ったのかも、車内の二人にどう内容が伝わったのかも。
だから俺は、後部座席の凪がどんな表情をしていたのかなんて、知る由も無かったー―
* * * * *
それから数日が過ぎ、一見いつもの日常を取り戻したかに思えた。が、心は全く晴れていない。
(一緒に夕飯作るったって……)
どう考えても相当な親密さだ。その場に二人の中学時代の同級生が十人くらい居るとなれば、同窓会で鍋パーティーでもやったんだろうと看過できるのだろうが……
「どう考えても、一緒に暮らしとるのではないか?」
「心を読むなよ、じーさん!!」
自室のコタツの上で、主をからかって笑う式神に噛みつく。
言霊ブレスレットの件が落ち着いてからは、また元のように一日中コタツでゴロゴロする日々が続いていた。コタツに横になっては漫画を読んだりTVゲームをしたり、だ。そろそろこのまま、一生コタツから出られなくなるんじゃないかとさえ思えてきた頃だった。
「しかし、あやつをこのまま野放しにしておいて良いのかのう……」
「あやつって……村雨のこと?」
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