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今回の件で村雨には、嘘を真に変える“言霊の能力”が備わっていることが判明した。正確には彼の喉に封印されている異形の力だが、封印されている以上異形の意思ではなく、村雨の言葉に魂が宿るので彼の力と言っても差し支えない。
村雨の霊感商法が繁盛したのも、彼の言霊が嘘を真に変えてきたからで、彼が終始ふてぶてしい態度だったのも、これまで嘘が真になってきたことからの自信だったのだ。
だが忘れてはいけないのは、人の言葉を理解する異形というのは、異形の中でも強い力を持っているということだ。村雨の喉に封印されている異形は、決して小物異形などではない。
「そうは言っても、俺にどーしろってのよ。陰陽師の技が使えるわけでもないし、封印された異形なんか祓えないよ?」
「……」
「幸い村雨は無自覚なんだし、思ったほど悪い奴じゃなかったから、放っておいてもいいんじゃない?」
TVのリモコン上で胡坐をかく桜爺は、腕を組んで「うぅむ」と唸り続けている。
桜爺が心配するのも無理はなかった。今回村雨は、相手を呪おうと思って言霊を発したわけではなく、むしろ相手を救うために発していたのだ。それでも人の命を奪うとなれば、やはり言霊の能力は人の身に余る恐ろしい能力と言える。
だが、不用意に言霊のことを教えれば、村雨が悪用してしまう可能性は否めない。
(どちらにせよ、何も出来ないんだよなぁ……)
村雨が言霊を悪用していたのであれば、さすがに情報だけは明水へ流すことも考えたが、取り調べで知り得た彼の過去を鑑みると、そこまでする必要もないだろうという結論に落ち着いた。
とりあえずその件はひと段落したということにして、起き上がってお茶でも飲もうとしたその時、携帯の着信音が室内に鳴り響く。液晶画面にはさすがに見慣れた『桃塚虎我』の文字が。
「もしもし?」
『きいっちゃん、今すぐ交番来れる?』
「行けるけど何で?」
『今、交番に村雨が来てるんだよ。きいっちゃんに会いたいって』
「はぁ!?」
「俺は会う理由ないけど」と言うと、村雨は俺に会うまで帰らないとまで言っているらしく、虎我は「交番に来ないなら自宅まで連れてく」と脅してきた。なので渋々俺は、交番へ向かう準備を始めるのだった。
* * *
交番に到着すると、そこにはいつもの着物姿ではなく、カジュアルな洋服に身を包んだ村雨が警官二人と一緒に待っていた。虎我と一緒にいたのは、今までなかなか遭遇できなかった先輩警官だ。虎我より十歳以上年上に見えるその警官は、虎我から俺のことを聞いていたのか俺を見るなり、「君が噂のきいっちゃんか!」と握手を求めてきた。
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