29.言霊ブレスレット

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 先日ファミレスで会った時とは百八十度違う態度に、違和感を覚えていないと言えば嘘になるが、この店のオムライスが大好物なこともあり、ここは遠慮なく村雨に甘えることにした。入店したのがちょうどお昼時だったこともあって、村雨も自分の分のボロネーゼを一緒に注文する。  暫く待っていると、美味しそうな匂いと共にオムライスとボロネーゼが運ばれてきた。見るからに熱々の湯気が立ちのぼるその姿に、生唾がじゅわっと湧き出す。目の前にフワフワのオムライスが置かれると、「それでは頂きます」と手を合わせて、おもむろにスプーンを差し入れる。 「ところで村雨さん、次の仕事はどうするんですか?」  何気なく訊いてみただけなのだが、村雨はすぐには答えず、「そう言えば、忌一君て今ニートなんやってな」と返した。 「えぇ、まぁ……」 「でも心配しんなや。これを食べたらわいも忌一君も、無職とはおさらばや」 「それはどういう……」 「まぁまぁ、『腹が減っては戦は出来ぬ』って言うやろ?」  そう言って村雨は大きな声で笑う。何かをごまかされた気がして、それからは何だかオムライスがスムーズに喉を通らなくなったが、ここは早く帰るに越したことはないと思い、無理やりにでもスプーンを口に運び続けた。  そして最後の一口を食べ終えた時、村雨が突然「忌一君、全部食べたな?」と確認する。 「た、食べましたけど……何か?」 「ほしたら早速本題に入りたいんやけど……忌一君、わいと一緒に仕事せぇへん?」 「はぁ!?」  思わずその場に立ち上がり、その勢いで食べ終わったオムライス皿からスプーンが転がり落ちた。床を叩きつける金属音が店内に響き渡り、昼食中の客たちが一斉にこちらを注目する。その視線に焦り、素早くスプーンを拾って座り直すと、顔を覆うように額に手を置いた。そして村雨に小声で、「どういうことですか?」と訊ねる。 「自分なぁ、ホンマわかっとらんで。己の価値いうもんを」 「俺の価値?」 「せや。桃塚はんから聞いとるで、忌一君がニートなんは、その能力のせいなんやてな。だからそない自己評価低いんと違う?」 「……」  確かに村雨の言う通り、鬼の眼のせいでニートを余儀なくされているのは一理あるが、自分の身に巣くうとんでもない異形のことは言えないので、ここは黙るしかない。 「今回内海さんを救ったんは忌一君の力のおかげやろ? 桃塚はんからは他にもいろいろ聞いてんで」 「ま、まぁ、俺の力っていうか……」 (式神の力っていうか……) 「あんなぁ、忌一君。君の力は凄いんやで? わいはな、この世の万物全てにおいて、良いところと悪いところがある思うててん。君の能力は、日常生活に支障をきたすところが悪いところや。せやけど、困ってる人を救える素晴らしい力でもあるんやで?」
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